星の河



ここはどこだろう、見覚えのない場所だ。夢をみているのだろうか。
けれど、いつものように胸を押し潰されるような苦しさはないし、何より自分自身も塗り込められてしまいそうな闇はない。どこまでも澄み渡って見えるようなそんな暗さが広がっている。


くるり、と辺りを見回してみる。歩いて行ったらとても疲れてしまいそうな場所に、大きな木立があるのが分かる。
その他には、足元に広がっている川だけ。確かに流れているのだけれど、それは水ではない。足も着物も濡れないし、水が流れる音もしない。手で掬ってみるけれど、やっぱり水滴なんて付かない。
特徴的なのは、夜空に輝く星をそのまま混ぜてしまったように、金色の粒が不思議な水の中で光っていることだ。きらきらと発光していて、蛍みたい。


あまりにも綺麗で、一人占めしているのがもったいなく思える。だけど、ここは夢の中なのだから誰かを連れてくることはできない。
皆遠くに行ってしまったから、この光景を伝えることも叶わないけれど。


少しだけ逡巡して、足を一歩踏み出してみる。川の上流に向かって、だ。
すると、微かな変化が訪れた。
季節を感じる。今は、“夏”だ。色も何もないのに、木立には青々とした葉が茂っているような気がする。
また一歩進むと、次に感じるのは“秋”。葉がしだいに色づいて鮮やかなものになる。

(不思議だなぁ)

そうとしか言いようがない。色なんて分からないのに、黒の濃さの違いときらきらと光るものしかない空間なのに。言葉で説明できないのも愉快だ。


次は、“冬”。枝についていた葉は落ちて、冷たくて、真っ白な雪が積もる。
四歩目は、“春”。冬の寒さに耐えた蕾から、彩り豊かに花が咲く。


そして、季節は巡り、再び“夏”が訪れる。
ふわり、と柔らかい風が吹き、それと同時に色が現れた。今まで自分が見ていたものが幻のように、鮮やかに映える木々の緑が離れたところから飛び込んでくる。頭の上には空色がどこまでも続いて、だけど足元の川だけはきらきらと輝きを擁していて変わらぬままだ。
一通り周りを眺めて視線を元に戻して、目の前に突然登場した人に驚かされることになった。
相変わらずの整った顔。洋装に合わせて短くなった髪は、やっぱり見慣れない。懐かしい声で名前を呼ばれ、手を差し出された。


出会った頃と同じように大きく感じられるその手を握って、共に歩き始める。
星が流れる川は前へ後ろへと続いていて、どこまでもずっと煌めいていた。





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総司の命日によせて。あなたがいつまでも安らかに眠れますように。


2012.05.30.



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