「え、総司ってまだサンタクロース信じてんの?」

すごく嬉しそうな顔で訊き返した伊庭を見て、口を滑らせたことに気がついてももう遅い。総司にサンタがいないことを言いたくてうずうずしているイケメンの隣で、俺は自分の失態に溜息を吐いた。
今日は夜更かししないとなぁ、と呟いた俺がいけなかったのだ。耳聡くそれを聞いた伊庭の質問攻めに屈してしまった。

「サンタがいないとか絶対総司に言うなよ。近藤さんたち、必死に子供の夢を守ろうとしてたんだからな」

サンタ服を生地から買ってきて作り、庭にトナカイを模した足跡とそりの跡を付けるくらいには必死だった。小学校・中学校とクラスが一緒だった俺と斎藤は、サンタの話が出たら総司の耳を塞ぐよう頼まれたりもした。そのくらいの熱意を持って、試衛館組は総司の純粋な心を守ってきたのだ。
今年から寮生活で渡せないからと、近藤さんから直々にサンタ役を頼まれたのはちょうど一週間前だ。よろしく頼む、と頭を下げられては断れるはずもない。手渡されたのは大きな袋に入ったプレゼントと、手づくりのサンタ服。それと、真っ白な付け髭。
もちろん、俺たちの分もプレゼントはあった。ただ、サンタの正体を知っているためクリスマス当日よりいくらか早く渡されたことになる。

「斎藤がサンタ役したほうが良かったんじゃない?総司と同室だし」

そう訊いてくる伊庭に、

「同室だからだよ。プレゼント大きすぎてすぐ見つかるだろ」

と返して、談話室を出て仮眠のため自室へと向かう。
決行は明日未明。準備は万全だった。






「で、何でお前も来るんだよ」

総司の部屋の前、律義にサンタ服と付け髭を着用している俺を見て笑いを堪える伊庭に、内心ムカつきながら言う。
面白そうだから、とすぐに返された。そうですよね、伊庭サンは昔っから面白いことが好きでしたよねー、と心の中で呟いてから、ゆっくりと注意深くドアを開ける。


窓際のカーテンは閉められておらず、部屋の中は月光で明るい。手に持っていた暗視ゴーグルは使われることなく役目を終えた。

「あ、れ?」

小さく声を発した俺に、音をたてないようドアを閉めていた伊庭がこっちにやってくる。

「どうした?」

「総司がいない……」

俺が指を差す右側のベッドは、掛け布団や毛布が綺麗に畳まれた状態だった。枕が寂しげに月明かりに浮かんでいる。

「じゃあ、こっちじゃないの?」

首を傾げた伊庭は、素早く左側のベッドまで移動した。そこには斎藤が寝ているはずで、あ、でも、一人分にしては膨らみが大きいような……。
掛け布団の端を伊庭が掴む。バッと少しだけ布団をめくった伊庭の手が、ガシッと布団の中から出て来た手に捉えられた。

「何をしてる」

ベッド脇に近付くと、めくられた布団の隙間から斎藤がこちらを見ている。その腕の中に、総司が抱きこまれているのが分かった。

「いや、お前こそ何してんだよ」

「羨ましい、俺も総司と寝たい!」

総司を起こさないように、全て小声でやり取りする。というか、隣の残念なイケメンをどうにかしてくれ。

「総司が手足の冷えがひどくて眠れないというから、俺の布団に入れてやったまでだ」

そこで一旦区切り、斎藤は俺を見て盛大に眉を顰める。

「愉快な格好だな、藤堂」

「だよな〜。けど、けっこう似会ってると思うよ、俺は」

フォローのつもりか口を挟んできた伊庭を睨む。俺を見た瞬間噴き出したのはどこのどいつだ。

「ん……」

斎藤の腕の中から、総司のくぐもった声が聞こえる。起こしたか、と思いしばし固まるも、すやすやと再び漏れ出した寝息に安心した。

「早く帰れ」

犬猫を払うように手を動かす斎藤に憮然としながらも、総司のベッドの上に大きすぎるプレゼントを置く。俺も添い寝したい、と斎藤のベッドに入り込もうとする伊庭を引きずって部屋を出た。
メリークリスマス、と小さく呟いてドアを閉める。閉まる直前に、カーテンの閉まっていない窓越しに白い雪がちらついているのが見えた。
積もったら雪合戦でもするかな、と思いながら自室へと向かう。伊庭と斎藤には絶対雪玉ぶつけてやると心に誓って、冷えた廊下を進むのだった。








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