※丸井視点


冬の日



ふわ、と幸村くんの柔らかい髪が頬に触れた。

「あったかい〜〜」

そう言いながら俺を抱き締める幸村くんは、ジャージのファスナーを一番上まできっちり閉め、その肩に一回り大きい真田のジャージを引っ掛かけている。鼻までをふかふかのマフラーに埋めている姿は小さい子供のようだ。


見て分かる通り、幸村くんは極度の寒がりである。仁王が夏に弱いように、幸村くんは冬に弱い。
幼なじみであるらしい真田はそのことを嫌というほど理解しているらしく、幸村くんがユニフォームの上に防寒具を着けていようと怒らない。そればかりか、あまりに寒そうにしているときは己のジャージを貸し与えるほどだ。
幸村くんに言わせると、俺と赤也は子供体温であるらしく、冬の間はカイロ代わりとばかりに抱きつかれる。高校に進学した今、近場に赤也がいないため、その標的は専ら俺となっていた。

「幸村くんって、ほんと寒がりだね」

きんきんに冷えた手を温めるように擦ってやると、幸村くんが心地よさそうに息を吐く。それがまるで猫のようで、可愛いなぁ、と思ったところで、前方からよく見知った癖毛の後輩が走って来るのが見えた。



「ちょ、何してんすか!」

「羨ましいだろぃ?」

顔を紅潮させて口を開いた赤也をからかってやろうと、より近くに幸村くんの肩を抱き寄せる。ちょっと身長差があるため、傍から見ると滑稽な感じになっているだろうが、幸村くん大好きな後輩はそれに気付かない。

「幸村先輩、俺のほうが温かいっすよ!!」

ようやく『幸村部長』と呼ぶ癖の抜けた赤也が、幸村くんの腕を引いて俺から離れた。
春の身体測定で幸村くんの身長と並んだことは知ってたけど、それからまた背が伸びたみたいだ。僅かな差だけれど、赤也のほうが幸村くんより背が高い。成長期ってすごいな。

「あ、ほんとだ。赤也あったかいね」

温かさで幸せそうに瞳を細める幸村くんと、幸村くんに抱きつかれてるのが幸せすぎて顔を緩ませる赤也を見て、お前ら早く付き合えよ、ともう何度感じたか分からない言葉を胸に仕舞った。


真田先輩のにおいがする、と小さく呟かれた言葉に笑って、幸村くんの肩に掛かってるジャージを指差してやると、うげ、と赤也の顔が歪む。

「幸村先輩、俺の貸しますからこれ脱いで下さいっ」

ブレザーを脱ぎ始めた赤也に、幸村くんが首を傾げた。
好きな人が他の男の服着てたら嫌だよなぁ、とその光景を眺めながら思うが、ウチの部員は大半が幸村くん大好きなので今更なこととも言える。真田が貸さなくても、参謀や柳生が貸すだろうし。


加齢臭移ったらどうすんですかぁ、と失礼なことを言った赤也に、噂をすれば何とやらで現れた真田の鉄拳が落ちたのは言うまでもない。
ぎゃーぎゃー喚く赤也の声を聞きつけて、仁王やジャッカルも集まってくる。一気に賑やかになったそこで、幸村くんが今日一番温かそうに笑ったものだから、俺もつられて笑う。


今季一番の寒い日だというのに、心はほっこりと快い温かさに満ちていた。







2012.01.22.

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