夜会に参加して数日後。小春日和に庭の草木が喜んでいるように感じながら、蓮二の淹れてくれたお茶を啜っていた。 正面には、見慣れた軍服を着た跡部が座っている。 「御簾越しの男、か」 婚約者の娘たちを殺していた女について報告を済ませると、彼はそう呟いて暫し考え込んだ。 この度の跡部の依頼は、恨みを残して死んだ女が無差別に軍人の婚約者だけを襲ったものとして解決した。だけれど一つ気になることが残っていて、それが跡部の呟いたことだ。彼女に蟲を与えたという男がいなければ、犠牲者が出ることもなかったはずだった。 「その男については、こちらで調査を続ける」 受け取れ、と差し出された報酬を有り難く頂戴して懐にしまう。 暖かくなった懐に、今夜はまた蓮二と東溟に食べに行こうか、と考えながらあることを思い出して口を開いた。 「そういえば、跡部が頼んでいた着物がまだ残ってるんだけど」 未だに母屋の一室を占拠している煌びやかな着物に帯などは、男所帯のここに置いていても無用の長物だ。 「“婚約者”からの贈り物を突き返すっていうのか、あーん?」 にやりと笑って跡部は立ち上がる。 「跡部少佐の婚約者はとても綺麗だ、と噂になっているらしいからな。また夜会があるときは、お前に“婚約者”を依頼するとしよう。それまで着物は取っておけ」 「え、ちょっと……!」 言いたいことだけ言うと、跡部は部屋を出て行く。反論することもできないまま残された俺の肩を、蓮二が宥めるように軽く叩いた。 春のような日差しが降り注ぐ秋の暮れ。暖かな陽気の中、不気味なほど穏やかに午後の時間は過ぎて行くのだった。 |