女の感情の高ぶりに合わせて、蟲が今まで以上に活発に動き始めた。

「羨ましいわ、あなたが」

お行きなさい、と彼女が俺に指を向ける。それに操られるように、蟲が一斉にこちらへと襲いかかってきた。

「精市様っ!」

「大丈夫だよ。赤也と朔はじっとしていて」

下等な霊の攻撃などたかが知れていて、式神を使うまでもない。どんな理由があろうとも、何人も罪もない娘を殺した彼女に同情の余地は無かった。
一瞬で地になぞった線を境にして、蟲とこちらの間に見えない壁を張る。空中に張られたそれに少しだけ気を送り込み、呪を唱えて、ぶつかってきた蟲を全て消滅させた。
僅かな欠片も残さず消え去る蟲を見て、彼女は叫ぶ。

「何故なの、どうしてっ!?」

顔を覆った女の細い手先が、次第に黒ずみ始めた。目を凝らすと、それは体の端から蝕むように広がって行く。

「蟲を使い過ぎたみたいだね」

不安定な霊体で扱えるはずのない蟲を酷使していたのだから、それなりの代償を払わねばならない。身に余る力を使えば、いずれは己に返ってくる。
悲鳴をあげて黒に浸食されていく女を助けることは、この場にいる誰にもできないことだった。

「女に蟲を与えたのが誰か気になりますが」

そう言う赤也に頷いてみせるけれど、彼女にはもうこちらの声など聞こえないだろう。
全身が暗黒色に染まった女は、靄のように実体を失くしていく。次の瞬間、狙いを定めたかのように吹いた強い風がその黒い靄を散らしてしまった。



空を覆っていた雲が動き始め、月が顔を覗かせる。驚くほど静かな辺りに、洋館から漏れた楽の音だけが響いていた。









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