着物の上に紫紺の天鵞絨羽織を纏った俺を出迎えたのは、普段とは違う白の軍服を着た忍足だった。

「跡部少佐の命により、幸村様を迎えに参りました」

堅苦しく述べた忍足は、すぐに笑顔を見せる。目元の辺りが、よく知る彼の従兄弟によく似ていた。

「えらい別嬪さんやなぁ」

「忍足も、男前だね」

互いに褒め合った後、忍足に手を貸してもらいながら馬車へと乗り込む。
その窓から、わざわざ見送りに出て来た蓮二たちに手を振ると、ゆっくりと馬車は動き出した。





洋館というものには数回しか入ったことがなく、入るたびにその煌びやかさに慣れない目がちかちかする。洋装ばかりの中で俺の和服は逆に目立っているのではないかと思いながら、忍足に手を引かれるまま跡部の元へと辿り着いた。

「忍足、御苦労だった」

忍足に軽く握られていた手はそのまま跡部へと移され、一つ礼をすると忍足は人の波へと消える。

「なかなか様になってるじゃねえの」

「それは、どうも」

ゆっくりとそして堂々と歩き出した跡部に合わせながら、小声で会話を続ける。左手は跡部に預けたままだ。

「今回の夜会に出席している軍人の婚約者たちには、一人一人に見張りを付けた。何かあれば、俺に知らせが来る」

そう、と頷くと、跡部はこちらに視線を遣る。眩い照明のためか、いつもより瞳の色が薄いように感じられる。

「それまでは、俺様の“婚約者”としての役目を果たすように」

にやり、と笑った跡部は握っていた俺の手を持ち上げると、そのまま手の甲に軽く口付けた。目を瞬かせる俺を見て満足気に笑うと、近くにいた軍人たちと話し始める。

(あぁ、もう)

これだから、と火照った頬を押さえながら、今にも飛び出して行きそうな赤也を意識の内で宥めた。


時刻は午后六時過ぎ。夜はまだ始まったばかりだ。












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