※元治二年、弥生/江戸

春褪せて



春も半ばだというのに、自分の周りだけが凍てついたように感じられる。晴れ渡った空も、咲き乱れる花々も、全てが色褪せて見えた。


手元にある二つの文に目を落とす。
『局中法度に背き脱走したため、総長山南敬助を切腹とする。介錯人沖田総司』という内容と日付が記されただけの文を退かし、もう一通の文を広げる。
それには、局中法度に則り切腹を行うこと、総司や副長を責めないでくれ、と山南さんの流麗な文字で書かれていた。


疲れてしまったんだ、平助すまない、と締めくくられた文を、丁寧に折り畳む。
総司の白くて細い手に握られた刀は、骨にぶつかることもなく綺麗に首に吸い込まれたに違いない。苦しみが最小に近い状態で、山南さんは逝くことができたはずだ。
そこまで想像して、痛み始めた額の傷を押さえる。滲む脂汗に手が滑った。


思い出すのは初めて出会った日のこと。忌み嫌われていた俺に、手を差し伸べてくれた優しい笑顔。


襲いかかってくる喪失感はどこか実感を伴わず、ただ瞳に映るものだけが次々と色を失くしていった。









「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -