異様に白い手を持つ美しい女に、祝言に誘われた。『夫婦』で来い、と言うその声は甲高く、耳に残る。
呆気にとられる俺を見もせず女はにやりと笑い、闇へと消えた。



京奇譚



軽やかに、灰桜の綸子の袖が揺れる。控えめに牡丹が咲く着物には、桜の花弁が散る箔錦の帯が結ばれていた。

「お前、本当に総司か」

女装をした総司に向かって、俺は呟いた。よほど近くで見ない限り、女にしか見えない。
土方さんや平助など、総司の周りに派手な色男がいるから今まで気づかなかった。こうして見ると、総司はなかなか可愛い顔をしている。
薄く化粧を施された顔に、前髪が落ちて影がかかる。それを払う指先も、男とは思えぬほど様になっていた。唇にのせられた紅が、いやに艶めかしく見える。


狐の祝言に呼ばれたんだろう、と俺が相談した寺の和尚はそう言うと茶を啜った。残念ながら断ることなど出来ない、と付け足される言葉に俺は項垂れる。妻がいない、と零すと、身形が女に見えるならそれで良い、と言われた。
和尚の言葉を疑うわけにもいかず、どうにでもなれ、と半ばやけくそで、総司に女装を頼み込み、今に至る。笹屋の銅鑼焼きが、女装との交換条件になった。



「そないに見つめはったら、沖田はんのお顔に穴が開いてしまいますえ」

着物を貸してくれた呉服屋の娘であるおまさちゃんの言葉に、はっと我に返り立ちあがる。祝儀代わりの揚げの包みを抱える総司を促すと、おまさちゃんに礼を言い、店の外に出た。外は提灯がいらないほど、煌々と月が照っている。





祝言に誘われた場所に着いてみれば、そこにはあるはずのない大きな屋敷が存在していた。驚く俺たちの前にどこからか男が現れ、屋敷の中へと案内される。
雅やかに楽が奏でられ、豪奢な料理が並ぶ座敷には、数え切れぬほど多くの者が座っていた。

「左之さん、あの人尻尾が生えてますよ」

案内人に揚げの包みを渡すと、座敷の隅に腰をおろす。
隣の総司はせわしなく辺りを見渡し、俺に耳打ちしてくる。目線の先にいる男から、ふさふさとした立派な尻尾が生えていた。

「夢でも見てるみてえだな」

「頬をつねってあげましょうか」

余計なお世話だと眉を顰めると、総司はけらけらと笑う。狐狸の宴という特殊な環境におかれても、こうも平然としているのだから感心する。これが総司の剣の腕にも関係しているのではないかと考えながら、目の前の徳利に手を伸ばした。


あの人は、烏みたいだな。向こうの人は、きっと兎ですね。
新しい遊びを見つけた子供のように、弾む声で予想をしていく総司が指で示す方に視線を遣りながら、猪口に口を付ける。芳しい香りがする酒は、今まで飲んだ中でも特に美味い。
座敷はひっきりなしに人が出入りし、いつまでも賑やかなままだ。末端に座ったためか、祝言の主役の姿が隠れて見えないのが、少しばかり残念に思われた。








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