※年齢操作。

毎日ずっとスイートにすごそう



いつもよりお客さんが多いなぁ、と思いながら仕事をしていた多義が、今日はクリスマスイブだということに気付いたのはバイトが終わってからだった。忙しくて休憩時間もろくに無く、当然メールのチェックも出来ておらず、迷惑メールに紛れていた青砥のメール着信からは優に五時間を経過している。
ホテルで待ってる、という内容の短いメールに、多義は慌ててバイトの制服から私服へと着替えた。スペインから昨日帰国したばかりの友人の母親は海外を飛び回って仕事をしており、随分と前に日本の家は引き払ってしまっている。だから、青砥は自分の国に戻って来たというのに帰る家がなく、ホテルを借りるはめになっているのだった。
立地の良い場所にある外資系のビジネスホテルは、オープンからそれほど年数が経っていなさそうな小奇麗な外観だ。エントランスを抜けると、ロビーに置かれたソファの背からきらきらと輝く金髪が覗いている。青砥だ。

「青砥、久しぶりだな」

近付いて声をかけると、青砥は綺麗なコバルトブルーの双眸をゆっくりと細めて多義を見つめる。

「久しぶり」

「遅くなってすまん」

「ううん、気にしてない」

そう言って、青砥は立ち上がり多義の手を引いた。
エレベーターへと向かって歩いていく青砥に引っ張られながら、懐かしいな、と多義は思う。こうやって、青砥に触れられることが久々のような気がした。それもそのはずだ。青砥はスペイン、多義は日本で生活していて、青砥がこうやって帰国したときでもないと会えないのだから。



多義がぼんやりと考えている間に、青砥の部屋へと辿り着いたようだ。カードキーで解錠する青砥について室内に入り、そのまま案内されるのかと思いきや、入って来たばかりのドアに背中を押しつけられる。成長期に入っても身長の伸び悩んだ青砥の頭は、すくすくと縦に伸びた多義の肩の辺りにあった。うっすらとした電灯の下、海のように青い目が多義を見上げてくる。

「青砥、どうしたんだ……?」

質問に答えることなく、青砥は多義のシャツを掴んで引き寄せた。目を見開いていた多義にはよく見えた。大きな青い目が金色の睫毛に縁取られた瞼に隠される。焦点の合わないほど近付いた青砥の顔に戸惑う多義の唇に、柔らかいものが触れた。それが青砥の唇だと気付くのに時間がかかる。
触れるだけのキスは長くは続かず、ちゅ、と小さなリップ音をたてて離れた青砥が、少しだけ満足気に微笑んでみせた。美しい顔に、悪戯っ子のような表情が浮かぶ。タギー、間抜けな顔。そう呟いて、青砥は多義の左手を持ち上げた。

「青砥?」

戸惑ったままの多義のことなど気にもせず、青砥はどこからか取り出したシルバーの細身の指輪を浅黒い肌をした薬指へとはめていく。小さくもなく大きくもなく、びっくりするほどぴったりと薬指に納まった指輪に、多義は驚くばかりだ。

「タギーには、俺の隣を歩いて欲しい。これからずっと」

声変わりを終えても高めの声が、耳を擽った。きらきらと、眩いばかりの青砥が多義の目に焼き付いて離れない。

「プロポーズだから」

そう言う青砥に、多義はいつの間にかゆっくりと頷いていた。





多義が青砥と距離を置くようになったと感じたのはいつからだったろうか。触れるのも躊躇うというような多義に、青砥は悲しみと寂しさを覚え、少しだけ怒ってもいた。青砥は多義のことが、当然ながらサッカーよりも好きだったし、多義もそうだという確信はあった。だからこそ距離を置く多義に痺れを切らして、自分から距離を詰めてやろうとそう思ったのだ。
指輪のサイズなんて知らないから、日本にいる竜持に協力してもらった。飲み会で酔いつぶれた多義の指のサイズを、事前に測ってもらっていた。竜持の計測はよっぽど正確だったらしい。すっぽりと多義の左手薬指に納まった指輪を、青砥はゆっくりと撫でる。シンプルなデザインのリングの裏側には、小さな青い宝石が埋まっていることを多義はまだ知らない。
多義にキスをしたのは、勢いのようなものだった。外資系のホテルだからか、ドアの内側にはヤドリギが飾られていた。多義の頭がちょうどその下にあったから、海外の習慣を借りてキスをした。



青砥は多義を離すつもりは無い。
未だに戸惑ったまま、それでも雰囲気に流されて青砥をシーツの上に沈める多義を、コバルトブルーの蕩けそうな瞳で見つめる。
多義はプロポーズを受けたのだから、これからはずっとずっと青砥と一緒だ。


- - - - - - - - - -
タイトル詐欺かもしれない。お借りしました:LUCY28

2012.12.24.

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -