いっぱい食べるきみが好き



体と同じように小さな口へと向かって、チキンライスを山盛りに乗せたスプーンが運ばれていく。ぱかり、と大きく開けた口内へとスプーンの先を招き入れる青砥は、実年齢よりも幼く見えた。まだ小さな子供のようだ。口いっぱいに頬張ったものを咀嚼する姿は、ハムスターみたいで可愛らしい。
多義は、青砥が何かを食べている様子を見るのが好きだ。その小さな体からは想像つかない量の料理を平らげていく様は手品を披露されているようでもあり、ほぅ、と嘆声が漏れてしまう。自分よりいくらも小さい体のどこにそんなに物が入っていくのかと不思議に思うのはいつものことだ。多義の母親なんかは、息子よりも食べてくれるから作りがいがあると言って青砥が来ると嬉々として料理を始める。

「タギーは、食べないの?」

「あぁ、食べるよ」

口の中のものを飲み込んだ青砥が、不思議そうに多義を見た。青砥の前に置かれているオムライスは半分にまで減っているというのに、多義の皿のものは一口分が無くなっているだけだ。首を傾げる青砥に言葉を返して、多義はスプーンでオムライスをすくう。ケチャップで程良く味付けされたチキンライスに薄焼き卵が乗っかっている。オムライスの卵が、とろとろの半熟卵じゃなくて薄焼き卵なのは、多義と青砥の好みだった。
オムライスを味わいながら、多義は再び青砥を見つめる。目一杯に開かれた口内に見える白くて並びの良い歯列とか、柔らかそうな赤い舌とか、普段はあまり見ることのできないものが見られるというのも、多義が青砥の食事光景を好きな理由かもしれない。
今度は多義の視線を気にすることもなく、青砥はオムライスを食べ進めている。小さな口が大きなオムライスの一欠片を食み、咀嚼し、喉が少しだけ動いて嚥下したことを知らせる。その一連の流れを見つめていた多義は、オリーブグリーンの双眸を満足気にゆるりと細めた。



青砥がいっぱい食べるのは、早く大きくなりたいからだということを多義は知っている。二人一緒のときは多義より少しでも多くご飯を食べようと意識しているし、嫌いな野菜も涙目になりながら頑張って食べている青砥は一生懸命でいじらしい。そう感じる傍らで、大きくならなくてもいいのになぁ、と思っていることは青砥には秘密である。隣を歩く青砥の金色の旋毛を見るのが好きだし、多義よりいくらも小さな足が華麗にボールを操る様も好きだ。例え青砥が多義より大きくなったとしても、多義が青砥を嫌いになるなんてことはないけれど、できれば今のまま多義が十分に見守れる速さでゆっくりと成長してくれればいいと願う。青砥が思い描いているような、朝起きたら急に背が伸びていたなんていうのは、あり得ないことだし、そんなことになったら多義は残念に思うだろう。多義の手が届くところで、守ることのできる範囲にすっぽりと収まってくれる方が嬉しい。そうしたら、多義はいつまでも青砥に手を伸ばせる。青砥もきっと、多義から手を離さないでいてくれる。



青砥がオムライスの最後の一口を、口に運ぶ。多義は、青砥が食べる様を見るのが好きだ。小さい口でいっぱいに頬張って、小動物のように食べているところが好きだ。
多義の深い緑色の瞳が、僅かに暗く揺らぐ。
小さい体には不釣り合いの量の料理を、大きくなりたいという思いで一生懸命に食べている青砥が、多義は好きだった。



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何でこうなった、としか言いようがない。
青砥中心企画:宇宙のぬくもり 提出



2012.12.16.
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