丸々と太った月が綺麗に見える窓際に置かれた簡易テーブルの上には、アップルパイ、梨のコンポート、柿のゼリーが並んでいる。月見をしようと言い出した伊庭が作ったのは、定番の団子ではなく秋の果物を使ったスイーツだった。

「親戚から果物が送られてきたんだよ。その量が尋常じゃなくて、傷む前に使っちゃおうと思って」

コンポートを人数分の皿に取り分けながら、伊庭はそう言う。
床に敷かれたふかふかのラグマットの上に座る俺の隣で、総司はアップルパイを幸せそうに頬張っている。花より団子、もとい中秋の名月よりアップルパイ、という諺が新たに出来てしまった。

「お前、洋菓子ばっかり作るんだな」

ブラックコーヒーの入ったマグカップを手に持つ斎藤が、伊庭に向かって口を開く。確かに、バレンタイン前の調理実習でも伊庭が作っていたのはザッハトルテだった。

「洋食とか洋菓子の方が得意なんだ」

これ甘さ控えめだから、と甘いのが苦手な斎藤に梨のコンポートを差し出しながら、伊庭はにっこりと笑う。

「あ、でも、総司が和菓子食べたいっていうなら俺練習するよ」

笑顔はそのまま、総司の正面に膝をついて顔を覗き込みつつ伊庭は言った。女子が見たら卒倒しそうなほどの甘い微笑みである。
ぱちり、と目を瞬かせて、総司は急いで口の中のものを飲み込んだ。

「伊庭くんが作るのなら、何でも食べたいな」

洋菓子の甘さをたっぷりと含んだような蕩けんばかりの総司の笑顔だった。伊庭のアップルパイがさぞ気に入ったのだろう。とっておきの殺し文句である。
総司の笑顔プライスレス、と呟いてラグマットに顔を埋める伊庭に、マグカップをカタカタと震わせながら先程の笑顔を目に焼き付けている斎藤が視界に入る。
首を傾げて不思議そうにしながら再びアップルパイを食べ始めた総司に、紅茶の入ったカップを差し出してやりながら見上げた窓の向こう側では、大きなお月さまが煌々と輝いていた。





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