※丸井視点 |
秋になると、昼間も星が輝き始める。 そう言ったのは誰だったのか。はたまた、何かの本で目にしたのか。その言葉の印象だけが、強く残っている。 Le Petit Prince 「久しぶりに、部活見に行こーぜぃ」 長いHRが終わるとすぐに、俺は仁王の腕を引っ張った。一昨日見に行ったばかりじゃろ、と言いながらも、仁王はおとなしく付いて来る。 全国大会も終わり部活を引退したからといって、エスカレーター方式の学校であるが故に受験勉強に力を入れる気も起こらず、後輩に代を譲った部活に頻繁に顔を出している。 夏の間、あんなにじりじりと全てを照らしつけていた日差しは随分と優しくなり、夕方にさしかかった今は肌寒さを感じるくらいだ。 テニスコートへ近づくと、フェンスの外に置かれたベンチに大好きな同級生が座っているのが見えた。 「幸村くん!」 名前を呼ぶと、彼はこっちに気づいて穏やかに微笑う。 「赤也たちは、外周走ってるよ」 そう言う幸村くんに駆け寄ると、ふわんとした香りが鼻をくすぐった。秋だと告げる花の匂い。 「幸村、何か付いとうぜよ」 仁王が幸村くんの髪に手を滑らせ、オレンジ色の小さな花を摘みあげた。金木犀の花が、幸村くんの髪やカーディガンにくっついている。 「HRが早く終わったから、部活が始まるまで金木犀を見てたんだよ」 こんなにくっついてるとは思わなかったな、と呟く幸村くんの髪の毛には、まだオレンジ色の花が引っ掛かっている。まるで、夜空から落っこちてきた星のように。そう思った瞬間、俺の口から言葉が飛び出た。 「幸村くん、星の王子様みたい」 突飛な俺の発言に、幸村くんは目を瞬かせる。そうじゃのう、と口を開いたのは仁王だ。 「金木犀は星によう似とうし、幸村は顔も整っとるから、王子様にぴったりじゃ」 プリ、といつもの口癖も交えて、仁王は腰を屈めて幸村くんの髪に鼻を埋める。 「ほんにええ匂いのする王子様じゃき」 そう言いながら仁王は俺の後ろを見て、にやりと意地悪く笑った。 振り向くと、ランニングを終えた赤也が息を切らしながら仁王を睨んでいる。 「幸村部長は、俺の王子様っすよ!!」 恥ずかしげもなく叫んだ赤也に、にやにやしながら仁王が近寄って行く。久々に赤也で遊びたくなったんだろう、悪い先輩だ、と他人事のように思いながら、俺は幸村くんの隣に腰を下ろした。 なんじゃ、それじゃ赤也はお姫様になるんかのぅ、という仁王の言葉に、赤也が言葉を詰まらせている。 ふふ、と隣で幸村くんが笑った。 ふわん、とまた金木犀の匂いが香る。 いつの間にか、仁王と赤也も笑っている。 あぁ、なんて素晴らしい日なんだろう、胸一杯に秋を吸い込んで、俺も笑った。 2011.10.06. |