※大学生。多義視点。


夜道を歩きながら見上げたアパートの自室は、カーテン越しに光を外へと漏らしていた。それにぼくは嬉しくなる。
ここ二三日、ぼくを出迎えるのは明かりのついていない真っ暗な部屋ではなく、煌々と照明のついた部屋とお帰りという優しい声だった。





ラピスラズリは夜へ還る




「ただいま」

そう言えば、青砥は律義に玄関まで出迎えてくれる。風呂上がりの金髪はしっとりと水分を含んでいて、綺麗に整った顔はどこか嬉しそうだった。

「水族館どうだった?」

バイト先でもらったチケットは一枚だけで、しかも期限は今日まで。それならば、急に一人で日本に帰ってきて、ぬいぐるみを集めるほどには水族館が好きな青砥に使ってもらおうと、チケットを渡したのだ。

「楽しかった。あと、竜持と凰壮にも会った」

狭い部屋のカーペットの上に置かれたホタテ貝のぬいぐるみには、可愛らしい黄色のリボンが結ばれている。その隣にはキャリーバッグが開かれ、半分程中身が詰められていた。

「竜持と凰壮に?」

詳しく話を聞けば、大学で竜持と出会い甘味を食べ、水族館で凰壮に会って魚を食べたという。
大好きな友人と一緒に好物を食べれたことが嬉しいのかと納得して、ベッドに腰かけてカーペットの上に座る青砥を見下ろした。透き通った青色の瞳が、光を取り入れて細められる。口元は美しく弧を描いていた。本当に嬉しそうだ。

「それで、その荷物は?帰るのか?」

さっきから気になっている開かれたままのキャリーバッグについて尋ねてみる。
青砥はほんの少しだけ不機嫌そうに眉を寄せて、小さく呟いた。

「……会いたくなったから、竜持と凰壮、見たら」

彼らは三つ子だ。成長して体格に差が出はしたけれど、それぞれの顔の造詣にそこまで違いが出るはずもない。
虎太に会いたい、と微妙に遠まわしに言う青砥が可愛く思えて、手を伸ばして金色の頭を撫でてやった。きらきらした髪が、光を反射する。
髪がくしゃくしゃになる、と文句を言う青砥に向かって口を開いた。

「もう喧嘩するんじゃないぞ」

でもやっぱり虎太に一人占めされるのは少しだけ悔しいから、喧嘩したらいつでも来いよ、と告げると、矛盾してる、と青砥が笑った。
毛先に少しだけ水分を含んだ髪を揺らして、影ができるくらい長い睫毛を僅かに伏せて微笑む様は昔と寸分も変わらず綺麗で、それに満足したぼくも笑う。



カーテンの隙間から覗く夜空には金色の星が散らばって瞬いて、ぼくたちと一緒に笑っているみたいだった。




2012.09.01.


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テーマ「人外ファンタジー」
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