明くる日も同じように跡部の家へと向かう。
いつものように、お邪魔しますと小さく呟いて門を潜った俺を出迎えたのは、無残に枯れて散った薔薇だった。昨日までは、庭一面を桃色や黄色の花が覆って蝶が舞い、それはもう美しかったというのに。

『精市』

人の形を成した葛の葉が、屋敷の中へと入ろうとする俺の前に立ち塞がる。華やかな十二単に金糸の髪を垂らした姿の葛の葉は、困ったようにこちらを見た。

「友達が中にいるかもしれないんだ。だから、葛の葉。そこを通して」

そう頼むと、葛の葉は姿は消さずに本来の狐の姿へと戻る。彼女は俺に甘いのだ。
どんよりと空気の澱んだ屋敷に足を踏み入れると、生臭い臭気が辺りを満たした。赤黒い血痕が一面に散り、手や足の指が床に転がっているのに気付いて、ますます不安が募る。
屋敷の奥へと進めば進むほどそれはひどくなり、唯一人の気配のする部屋に辿り着いたと同時に衝撃的な光景が目に飛び込んできた。

「跡部っ!」

床に倒れている跡部はぴくりとも動かない。その代わりに、跡部に覆いかぶさっていた巨大な蜘蛛が俺を見る。
不気味に光る八つの目が俺を視界に捉えて、ところどころ血に濡れた足を動かした。大人の男よりも何倍も大きな蜘蛛は、とてつもなく気持ち悪い。
跡部は無事なのかどうか、と化け物を視界に入れつつ様子を見ると、僅かに手の先が動いた。ほっとしたのも束の間、巨大蜘蛛が足を一本大きく振り上げる。向かう先には、気を失っている跡部がいた。



何も考えず、跡部を庇うように飛び出す。その次の瞬間、全てが眩く激しい光に覆われ、何かの悲鳴が耳を劈いた。
――俺の記憶は、ここで途切れている。








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