苦しそうに咳き込む姿に、前世の総司の姿が重なる。
『夏風邪だね』と医者に診断してもらったにも関わらず、『夏風邪を拗らせたんです』と言い張って労咳であることを隠して笑っていた顔が思い出された。



dreamin'




温くなった冷却ジェルシートを取り替えてやれば、その冷たさに今まで閉じられていた瞼がゆっくりと持ち上がる。

「目ぇ覚めちゃった?だいぶ熱は下がったよ」

俺の言葉にもう一度総司は瞬いて、それからベッド脇から身を乗り出すように覗き込んでいる伊庭と斎藤を見て再び瞬いた。

「何か飲みたいもんある?」

と伊庭が言えば、

「果物の缶詰もあるぞ」

と斎藤が言う。
温度も湿度も徹底的に管理された部屋の片隅にある冷蔵庫は、スポドリとミネラルウォーター、果物の缶詰等の病人対応食料に占拠されていた。部屋の中にごろごろと無数に転がっているダンボールの中にも同じような物が入っていて、これは総司が風邪だと知った試衛館から届けられたものである。
当然のことながら、皆が総司のことを心配しているのだ。


控えめにシャツの裾を引かれて、総司の口元に耳を寄せる。喉の痛みがまだ続いていて声が上手く出せない総司の言葉は、飲み物や食べ物を求めるためのものではなかった。

「平助、ありがとう」

小さく掠れた声でそう言って、総司はにっこりと微笑む。
俺のシャツを離した手が次に呼んだのは斎藤で、口元に耳を寄せられた総司が何かを言って瞳を細める。伊庭にも同じことを繰り返して、総司はぱくぱくと口を動かした。
布団から出ていた手も使って、指摘される。

「三人とも、隈できてる」

自分の目の下を指しながら小さく笑って、総司はもう一度ありがとう、と言った。
夜中の総司の看病をするのは時間ごとの当番制にしたくせに、どうしても総司のことが気になって結局三人とも徹夜したのだ。それを見抜いて、総司は礼を言ったのだろう。

「どういたしまして」

「ゆっくり休め」

伊庭と斎藤の言葉に、総司の瞼が再び下がり始める。それを促すように瞼の上に手を置いてやれば、視界が暗くなった効果もあって穏やかな寝息が聞こえ出した。
次に目が覚める頃には、完全に熱も下がっているだろう。そうしたら、冷えた缶詰の蜜柑や桃を皆で一緒に食べるのもいいじゃないか。
熱のせいで少しだけ赤い総司の目尻にキスをして、呟く。

「おやすみ、総司。良い夢を」





2012.08.21.

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