跡部の家は、物珍しいものばかりだった。
大きさこそ違うものの、屋敷の作りは白石のところと似たようなものだ。だが、ところどころに置いてある調度品の大半が目を引くものとなっている。
白地に黄金の装飾が施された飾り棚や臙脂の天鵞絨が張られた長椅子、柱に飾られた時計の振子は長時間見ていても飽きることは無い。
中でも気に入ったのが、庭一面を埋め尽くそうかというほどの庚申薔薇とその庭を囲う築地塀に枝を這わす木香薔薇だった。遣り水がなく小さめの庭に桃色をした庚申薔薇が咲き、白と黄色の花をつけた木香薔薇がそれらを取り囲んでいる様は、とても美しい。



異国情緒の漂う屋敷で跡部と共に遊ぶことが増えるにつれて気付いたことは、家人の少なさだった。跡部の両親には会ったことはなかったし、使用人でさえも顔を合わせることもない。ときたま屋敷のどこからか聞こえる微かな物音と気配を感じるくらいだった。
それを奇妙に思うことはあれど、口にすることはなかった。俺が疑問を言葉にする前に、跡部の方から目新しい話題がもたらされ、それにすぐ興味が移ってしまうのだ。





低い音を響かせて、振子の時計が時間を告げる。

「また明日来てもいい?」

出会ってからひと月、別れる前に欠かさず尋ねる俺の言葉に、跡部は子供らしくない余裕ぶった笑みを浮かべて決まってこう答えた。

「ああ、また明日な」

その返事に嬉しくなって跡部に手を振ると、そそくさと門を出て正面の築地塀に開いた小さな穴へと身を潜らせる。
すると、すぐ傍で遊んでいた蔵ノ介と謙也が近付いてきて、俺の着物についた汚れを丁寧に払ってくれるのだ。そして、そこから今日跡部に聞いた新しい話を披露する。これが、日常になっていた。









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