「私、赤司くんのこと好きかもしれない」


その告白は、告白と呼ぶには唐突であり、明確な気持ちがあってなされたものではなかった。

タイミングを丸ごと無視して吐き出された言葉に少々驚きはしたが、心を震わせられることもなく。
ただ、思いついたことをつい溢してしまったのだと分かるような動作で唇に手を当てる彼女に、当時群がってきていた女子達に感じていたような面倒さを感じることはなかった。

少なくとも藤代羽澄という人間は、自分の中で信頼の置ける部員の一人ではあったのだ。


「そうか」

「え? あ、うん。多分だけど…」


会話はとても短く、それだけで終わるかと思われた。
彼女自身も答えを欲して口にしたわけではないのだろう。自信はなさそうにゆっくりと頷く様が、やけに脳裏に染み着いたのを覚えている。

しかしその時、ふと魔が差した。自分はどうだろうかと、そんな考えが頭を過ぎったのだ。
目の前にいるマネージャーに、好意を抱いているか。その答えは悩む間もなく出ていたことであったのに。


(不快ではない)


部活動において、与えられた仕事には期待以上に応える。勉学の方の成績もよく、先を見通せる賢さ、人の心理にも敏感な特性は一軍マネージャーを勤めているだけあって既に認めていた。

好意を抱いていたかと言えば、それなりに話ができる人間としては認識していたのだろう。しかし、それまでだ。
元々恋愛云々という事情に興味は薄く、帝光バスケ部を背負って立つ中では特に、必要とは感じなかった。寧ろ邪魔になるとさえ考えていた節がある。

それでもその告白と呼ぶには曖昧過ぎる言葉を聞き流してしまわなかったのは、偏に無駄な時間を省けるかもしれないと、そんな考えが浮かんでしまったからで。
仮にも恋人という立場の人間を傍に置けば、押し寄せる女子の好意も幾らかは減りはしないだろうかと、そう結論付けた時には既に唇は音を紡いでいた。


「なら、付き合うか」


その時の彼女の呆気に取られたような顔も、よく覚えている。
何を言われたのか全く理解できないというように目を見開いて、半開きになった口は間抜けなものだった。

つい溢してしまった笑みにぱちぱちと瞬きを繰り返して、不思議そうに名前を呼んできた彼女に付け加える。


「仮の付き合いでいいのなら」


愚かにして無駄な一言を、紡ぎ出したことを後になってどう思うのか。
その時の自分は考えようともしなかった。






記憶を辿る5日前



そして頷いた彼女が、ただこちらの都合を察して受け入れてくれたこと。
それだけはしっかりと、理解していた。

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