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とてもくだらない話であるのだが、人という生き物はどうしたって見た目の印象を第一にものを考える。
それは自我の芽生えた頃には既にある習性で、周囲を囲む多くの人間の中から少しでも外れた要素を保持している者がいれば、本能が排除を促すようにできているのだ。

片親の血のお陰で少しばかり派手な顔立ちと色みのある瞳、分かりやすく目立つブロンドを持って生まれてきた私は、周囲の同年代からすれば恰好の興味の的だった。
人付き合いに積極的な性格じゃなかったのも禍して、小学校時代から徐々に腫れ物に触るように距離を置かれるようになって。見た目の派手さから悪評を立てるような輩も出始め、逆恨みで喧嘩を売られたりすることもあって、教師からまで目をつけられた。

元々、数の勝負に負けている私にはそれらをどうこうする力もなく、黙って一人でいること、たまに飛んでくる悪態にも慣れることしかできなかった。
友達はいなくなってしまったし、売られた喧嘩を躱しきれずに怪我を負うこともあった。素行が悪いと思い込んだ教師に的外れな説教をされたこともある。
私の言い分を理解してくれる両親がいてくれたのは幸せなことだが、その代わりにいらない心配を掛け通しなのも心苦しい。

けれど仕方がないことだ。これは、かの有名な童話と同等の話。
みにくいアヒルの子は、迫害を受ける運命の下にある。
種族が違うだけでも隔てりがあるのに、その上元々低いコミュニケーション能力を高める努力もしなかった、私にだって責任はあるのだ。

そしてそれはどれだけ年を重ね、進学してみても変わらない。



「二人か三人で、適当にグループを組んで取りかかりなさい」



高校一年の春のことだ。授業中に教師の放った言葉を拾って、私は密かに溜息を吐き出した。
グループ学習の機会は少なくない。いつかは来るだろうと思っていたことだが、出来ることならこの機会はいつまでもやって来ないでほしかった。
周りを見回すまでもなく、こんな時に組んでくれる友人が私にいるはずもない。
適当に、という条件がまた難しい。いっそ名簿や席順で指定してくれればあぶれずにすむものをと、苦々しい思いを教卓に着く教師に向けながらテキストとノートを睨む。

大概のグループができてしまえば、あぶれ者は少人数のどこかしらに放り込まれる。
そうなるとグループ内に微妙にやりづらい空気を立ち込めさせてしまうから申し訳ないのだが、私も授業をサボるわけにはいかない。

体感時間が速くなればいいのに…なんてことを考えながら、重くなる気分を誤魔化すために腹が立つくらい晴れ上がった窓の外を眺める。
こんな時間は、速く過ぎてしまえ。速く、早く静かな場所で昼食をとりたい。そういえば、今日のお弁当の中身は聞かされていない。何が入っているのだろう。



「あの、一緒にいい?」



何であっても母の料理は美味しいからいいけど…と、ぼんやりしていたから、降ってきた声に最初、意識が向かなかった。
窓と私の間を遮るように振られた手に、肩が跳ねる。驚いて見上げた先には、艶やかな空気を纏う女子が立っていた。



「ペア、いないなら一緒にいい?」

「……え?」



眼鏡の奥から理知的な目を向けられ、潤いのある唇から紡がれた言葉に唖然とした。

心なしか、ざわめいていた教室内が先程までよりも静まっている気がする。
クラスメイトにまともに話し掛けられたことが今までに少なすぎた所為で、言葉にならない声を上げて狼狽える私を、一人の女子生徒は真っ直ぐに見下ろして目を逸らしもしなかった。



「えっ…と、なんで……私…」

「騒がしいのが、あんまり好きじゃないから」



私なんかに話し掛けて、いい目では見られないだろうに。
解らないほど鈍感な見た目はしていない、正に和風美人と称するに相応しい彼女は、漸く言葉にできた問い掛けに対し微妙に外した答えを寄越した。

悪意には慣れていた。不躾な視線も、気にしないよう努めてきた。
だけれど、これは違う。よく分からないが、これはそういう類いの干渉ではない。

テキストの上に置きっぱなしにしていた拳が、震えた。
こんな時にどうすればいいのか、知らない。知らないなりに、うまく返せないものかと意味もなく視線をさ迷わせる。



「……私、も」



息が詰まる。ぶわりと汗が滲んだ。
溜まった唾を飲み下す音が、やけに耳に響いた。



「私も、あんまり…うるさいのは好きじゃない」

「…そう」



僅かに首を傾げて、私が声を絞り出すのを待っていた彼女は、一つ瞬きをした後に柔らかな表情で頷いた。



「じゃあ、気が合うかも」






アヒルが見付けた一輪の花




それが、高校に入学した年の春の出来事。私の中の変革。
最愛の親友になるべき人との、運命の出逢いだった。

20140522.

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