シリーズ | ナノ


理解と慣れは、密接に関係しているのかもしれないなぁ、なんて。

目の前の現状に早くも馴染み始めた自分の許容力に若干の感動を覚えながら、いつものごとく前の席の椅子を陣取る美男子には、もはや何の突っ込みも芽生えなかった。

けれど、遠くで自分達だけ班を作って固まり、こちらを窺ってくるクラスメイト女子軍団の視線は、悪意は感じないけれど結構痛い。
そしてあからさまに私と氷室くんから目を逸らし続ける男子の方も、なんだか気になる。

一体氷室くんはどんな牽制を周りに施したのだろうかと疑問に思うも、それを訊ねると好意に気付いていることまでバレかねないので容易に口にするわけにもいかず、もやもやする。



「きょろきょろして、どうかした?」

「え? いや…」



にこにこと、悪びれることもなく真正面から笑顔を向けてくる彼に、軽く仰け反りそうになった。
なんだかとっても笑顔が眩しいよ氷室くん。

それでもなんとか笑顔を作り返した私を、誰か褒めてほしい。



「何か、皆が遠いなぁ…って」



なんというか、私に気付けと言わんばかりに。
寧ろくっつけようとする行動が解りやす過ぎて、どう反応したものか判らない。

とうとう昼食まで彼と共にとるようセッティングされてしまえば、さすがの私でもここまでか、と溜息を附きたくもなるというもので。
いや、私が溜息なんて、こんな上玉に好かれている身で贅沢だとも解ってはいるけども。



(どうしろと…)



頼りのゆっちゃんに視線を投げても、勢いよく逸らされるし。
氷室くんは一人だけ、物凄く満足げだし。



「そうかな? いつもこんなものじゃない?」

「…いつもは、氷室くんと食べてないしね」

「オレと昼休みを過ごすのは嫌?」

「いや、それは光栄なんだけど」



直球だなー…とか、思うわけでして。

今までも、こんなに真っ直ぐに伝えられていただろうか。
何だか本気で、こちらを覗きこんでくる彼の瞳を見返すのが辛くなってきたような気がする。



(なんだか、空気が)



絡み付いてくるようで、居たたまれない。
これも氷室くんの色気の成せる技なのか。氷室くんの魅力の底無し加減が怖い。
いや、嫌いじゃないですけどね、うん。
そこはきちんと、内心頷いておく。

嫌ではないのかもしれない。別段拒否感は感じない。
ただそれは、美しいものを愛でたがる人の本能に乗っ取った感情である可能性もあるから、なんとも言えないけれど。

そもそも、私のどこに彼のような人が惹かれる要素があるのだろうか。
紙パックのイチゴミルクに差し込んだストローを、口につけながら考える。

何度でも語ろう。氷室辰也という人間は、男としてかなりの評価を得られる人だ。
顔よしスタイルよし頭よし性格よし。とりあえず、傍目から見る分には非の付け所がないイケメンであり、弱点や欠点があったとしても軽くカバーされるくらいには既に得るものは得ている人である。

それが、どうして血迷うのか。



(私の…何が)



そんな人の琴線に、どうして触れたのか。
こんな、気紛れで変人な、私なんかの何が。



「氷室くん」

「うん?」



甘く口に溜まった液体を飲み干してから呼び掛ければ、ふわりとした微笑を返される。
それはそれは甘ったるい表情に、ぐ、と喉が詰まりそうになりながらも私は堪えきり、その整った笑みを見上げ返した。



「氷室くんの好きなタイプを訊ねてもいいかな」

「…え?」



好きなタイプ? 女性の?

首を傾げる彼に頷き返せば、驚いたようにぱちぱちと彼の瞳が瞬く。
確かに、私からこんな話題を振ることは珍しい。思えば彼の方は、たまに私にそんな話題を振っていたような気もするが。



(スルーしてたんだなぁ私)



今更だけど、申し訳ない。

顎に手を当てながら考え込む彼の表情は笑顔から一変して、真剣そのものだった。
そんなに難しい質問だったのだろうか。



「あまり、考えたことがなかったな…タイプか」



ううん、と唸りながら、私に戻された視線にどきりとする。
上から下まで、満遍なく探られているような妙な感覚に、ぎしぎしと身体の芯が固まるような気がした。

し、視線が痛い。氷室くんの視線が一番痛い。

謎の羞恥心に見舞われている私を知らない彼の方は、一頻り私を見つめていたかと思うとそうだね、と再び頬を弛めた。



「思い付かないけど…好きになった子がタイプ、かな」

「…おおう」



さすが氷室くん模範解答をありがとうございます。

でもその答えだと、私の何に好意を覚えたのかは判断できないのだけれど…。



(と、いうか…)



なにこれ凄い恥ずかしいよ。

タイプが分かれば、疑問も解けるかと、ただそれだけの狙いで訊ねてみただけだったのに。
まんまと心拍数を上げられて、これは暫く顔を上げられない。

多分今のは、氷室くんも無意識だった。
それだけは察せるから、漸く箸をつけたお弁当の味も、あまり味わうことができなかった。








二倍の脈拍




そもそも好きとか、そういう感情の類いがよく解っていない私に、駆け引きなんてものができるわけもなかったのだ。



(みょうじさん? どうしかした?)
(大丈夫、問題ないよ)
(そう? なら、いいけど…)
(でも氷室くんは罪深いと思いました)
(え…?)

20130217. 

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