シリーズ | ナノ


大凡の思惑は、叶ったと言っていい。
悪行の全てが露見されたわけではないが、元々生徒側からは嫌疑の目を向けられていた林道美奈。悪い噂が広まって三日も経たない内に、臨時で開かれた朝の集会で、生徒会副会長の座が剥奪されたことが明かされた。

どうやら荷担していた複数人の教師は、彼女を隠れ蓑に逃げ切ったらしい。
金の切れ目が縁の切れ目、とは少し違うかもしれないが、いずれにしても利用していたはずの者に裏切られる状況とは哀れなものだ。
ステージにその姿はなかったため、一般生徒に混じって打ち沈んでいたか悔しさに燃えていたか、プライドが邪魔をしてその場にいなかったということもあり得る。彼女の事情を確かめる術はその時の私にはなかったし、それよりも代表としてステージに立つ教師や生徒会長、彼らの発する言葉の方が余程重要だった。



「全体を洗い出したいという希望からの特別措置で、素行成績共に優秀な生徒に生徒会の雑務処理班として推薦が上がったの」

『実質、成り代わったようなものだな』

「私だけじゃないけどね。他にも一年から二名、二年から一名指名されたし。もちろん、私は人選には一切関わってない」

『それでも選ばれることは確定していただろう』



電波越しに伝わってくる呆れ混じりな声音に耳を傾け、椅子の上で膝を抱えながら笑う。
まぁね、なんて、答えずとも知れたことだ。

私の幼馴染みは両親以上に過保護なところがある。
定期的に入る電話で何か変わったことはないかと毎度訊ねられるから、今日は素直に現状を報告してあげただけだ。溜息の後に少しだけ、沈黙が広がった。

短くない話を聞いて、今頃は自室で微妙な顔になってでもいるのかしら。
思い浮かべて、私の方はつい口元が綻んでしまう。どれだけ育ってしまおうと、長く接してきた幼馴染みが可愛いのは変わらない。



『つまり…副会長の座を奪取したのか』

「人聞きの悪い。私は悪いことなんてしてないのに」

『なまえなら隙も見せず、正当な方法を用いてはいるだろうね。だが、悪事を働かなければ万人に愛されるというわけでもない』



余計な恨みを買ったはずだ。
そう呆れた態度を崩さずに溢す、征十郎の読みは正しい。懸念材料は確かに残るだろう。私もそこのところは承知の上だった。

恨みを買っても、捨て置けない事情はある。
話し合いで解決できればよかったが、言葉の通じない相手に割く時間と労力は無駄なものだ。
金銭問題まで発生しているのに、そうそう容易に片付くわけがない。だからこそ少々強引な手段に出ることも必要だろうと、判断して行動したのだ。

それは飽くまで、自分の意思で。
誰のためでもない、私自身のための布石だった。



「仕方ないでしょう。繰り上げであんな人が生徒会長にでもなったりしたら、元ある箔が剥がれ落ちてしまうもの」



私の経歴に並ぶものとして、学院自体ができる限りはクリーンであってほしい。
黒は白で塗り潰す。見せてはいけないものは、絶対的に隠し通せるくらいには統率されていなくては困る。

たった一つの目的を叶えるため。いずれ再び大人になった時、誇れるだけのバックグラウンドが私には必要だ。
それなのに、あんな子供が権威を奮って調子に乗りでもしたら、学院全体に渡る不祥事が漏洩しかねない。それでは困る。

問題のある学院に所属しているというレッテルは、私に限らず多くの生徒にとっても避けたい展開だろう。
そうさせる可能性を持つ不穏分子は、排除してしまうのが手っ取り早い。



「後悔もないよ」



利己的と言われようと一部に恨まれようと、私はそうしようと決めたのだ。
個人的に、ああいうイカレた子供は可愛くないし気に入らないという気持ちも無きにしもあらず、だけれど。



「本音を言えば、最初は別に私じゃなくてもよかったんだけどね。それなりに能力のある人間が上に立つべきとなると」

『…お前以上に優れた人間は中々探し出せないだろうな』

「そういうこと」



生徒会長の助けに走り回っていたことは、既に全校生徒に知られている。自分で言ってしまうが、信頼も厚ければ能力も申し分ない。
他の推薦者の追随を許さないほど、上に立たない理由の方が見つからない。
私としても、内申書に有利となれば多少忙しくてもその座は頂いておきたいところだ。

いずれ、座る椅子が一つ繰り上がる時のためにも。



『なまえ』

「なぁに?」



悪い気がしているのは、こっちだけ。
理性の仮面で落ち着けられた、幼馴染みの声にわざと軽やかに返事をする。

頼むから、と紡がれた懇願には、彼から見えないのをいいことにそっと目蓋を下ろした。



『無茶な真似だけは絶対にするなよ』

「それを征ちゃんが言うの」



からかうように、返せたかしら。







攻落→排除




誰よりも無理をしがちな彼の身を私が案じる気持ちと、その想いは同じだから、少しだけ申し訳なくもあった。

20140627. 

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