シリーズ | ナノ


小学生生活にも、馴染めないなりに慣れてはきた今日この頃。
授業内容のつまらなさには辟易しているが、それも慣れるしかないことだ。授業時間を有効に使って宿題を終わらせることも多い。
相変わらず私も征十郎も、子供達の中に溶け込めてはいないけれど…。

そんな中、避けては通れない学校行事の一つがやってきた。



「今日は遠足の班決めをします」



こつこつと黒板にチョークを走らせ、ひらがなを並べた担任の言葉に教室内が一気に騒がしくなる。
そんな中、びしり、と突き刺さる視線を感じて首を捻れば、猫のような赤目が爛々と私を見つめていた。

気配で分かるってどういうことよ。



(気持ちは解るけど…)



手の掛かる子供の相手なんて、精神的に熟し過ぎた部分のある征十郎にしてみれば、至極無意義で退屈なものなのだろう。それは普段から見て接しているから理解できる。
だがしかし、だ。

この世には、大人の都合というものがある。
考えるまでもなく、担任の言い出すことも容易に想像できた。



「それから…なまえさん、征十郎くん」



不意に呼ばれた名前に、張本人達よりも周囲の子供の方が大きく反応する。
今度は一気に静まり返った室内に溜息を吐きたくなっていると、案の定担任の教師はにこにことわざとらしい笑顔を浮かべた。



「二人はしっかりしてるから、それぞれ班を分けて班長をつとめてほしいの…」



いいかな?、と訊ねつつ、既に彼女の中では決定事項なのだろう。



(まぁ、読めたことよね…)



班に一人は纏め役が必要なことは解る。既にしっかりとした子供がいるなら、うまく振り分けたくもなるだろう。
ただ、子供の方が納得するかどうかというと、別の話になるが。



「いやだ」



ズバッ、と刃物で切るような見事な拒絶を示した子供に、私は今度こそ溜息を吐き出す。

そう言うとは思ったけど…そこは空気を読むところというか。

未だに征十郎の扱い方を掴んでいない担任の笑顔が、軽く引き攣る。私は特に言いたい言葉が見つからないので、静かにそのやり取りを見守ることにした。



「なまえとはなれるいみがわからない」

「そ、それは…ほら、他のお友達と仲良くなるチャンスだから!」

「そんなものはいないし、いらない」

「なっ…」



これは…酷い。

言葉を失う担任から興味なさげに視線を逸らす征十郎。
その反応も読めたものではあったけれど、読めはしても感じるものはある。

どうしてここまで私限定に興味対象をしぼってしまったのか…私が甘やかしたからか。
だとしても、征十郎の意固地さは最早異常と言える域だ。



(結局それも、私の所為なのかな…)



苦い気分を飲み込み、ついでに呼吸も深める。
征十郎に話を聞く気は皆無。となれば、少々強引に丸め込むしかあるまい。
誰がやるか、と言えば、私しかいないわけで。



「征ちゃん、わたしとしょうぶしようか」

「…しょうぶ?」



ぴりぴりとした空気まで放って不機嫌をアピールする征十郎のおかげで、教室内は静まり返っている。
はっとした顔でこちらを振り向いた担任も今はスルーして、ほんの少し目力を和らげて振り向いた子供に、私はやんわりと笑いかけた。

要は、征十郎に不満のない形で担任の要望を叶えればいいという話。
そのくらいなら誘導できるでしょ。



「どっちのほうがてぎわよくはんちょうをつとめられるか。しんぱんはせんせいにおねがいします」

「えっ、ええ!?」

「…しょうぶするりゆうがない」

「かったほうは、まけたほうにおねがいをひとつだけきかせられる」

「!」

「ただし、かなえるのにいっしょうかかるおねがいごといがいで」



何でも、なんて口にしたら言質を取られかねない。
丸め込もうとしていることを察しても、征十郎が蹴りたくなくなる提案となれば、これしかなかった。

狼狽えながら私と征十郎に交互に目をやる担任に、いいですよね?、と笑顔でごり押しする。
だって貴方の都合を引き受けてあげるんだから、それくらいは協力してくれないと…ねぇ?



「も、もちろん…そういうことなら公正に判断するわ…!」



私の念が通じたのか、軽く青ざめながらも担任はがくがくと頷いてくれた。
公正なんて言葉が小学生に通用する気はしないけれど、まぁいいだろう。



「ね、征ちゃん。わたしとしょうぶ、してくれる?」



負けた時は少し面倒かもしれないが、この場を纏めるにはこれが一番手っ取り早い。
再び視線を戻してにっこりと微笑めば、軽く目を伏せて考え込んでいた征十郎は不満げな色を一切取り払った真っ直ぐな目で、見返してきた。



「わかった。うけてたとう」







不機嫌、収束




さて、そうなれば私も、本気を出さなければならなくなるのだけれど。



(まぁ…何とかするしかないか)



たとえ素直に私に従う女子がほぼゼロという環境であっても、勝負となれば手を抜くことはできないのだ。

20130324. 

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