赤司征十郎という子供が、同年代の子供達とはズレた感性を持ち合わせていることは、周知の事実ではあったが。
しかしまさか、ここまでとは思わなかった。
珍しく年相応にキラキラと輝いた赤い瞳が一直線に見つめる大画面を確かめて、私は今なんとも言えない気分を持て余している。
偶然用事が重なった互いの両親の不在に伴い、私の家で二人揃って留守番をしていた、特にやることも見つからない日曜日。
何気なくつけていたリビングのテレビでは、今正に暴れん坊な将軍様が不正を暴き、派手に刀を振るっている場面だった。
(未だにこんなのあってんのね…)
前世では定番だった番組内容だが、生まれ変わってもその辺りの需要は変わらないらしい。
まぁ、確かにスカッとする内容ではあるもんなぁ…と、そこは同意する気持ちもあるのだけれども。
(時代劇に見入る小学生…)
幼い男の子がよくハマる戦隊ものには見向きもしないくせに、何故時代劇には目を輝かせるのか…。
ちらりと隣に座る征十郎に視線を投げても、気付いてはもらえないくらい夢中で画面を見つめている。
普段からニュース以外のテレビ番組にあまり興味を示さない征十郎のことだから、もしかしたら時代劇を視るのも初めてだったのかもしれない。
仄かに頬を紅潮させて食い入るように画面を見つめ続ける横顔は子供そのもので、可愛いなぁ、とこちらの頬も弛んでしまう。
まぁ、興味対象は流石にちょっと変わっているかもしれないが、そこはご愛敬というやつだ。
本人が楽しいのが一番大事なことに、変わりはない。
(時代劇…時代劇、ねぇ)
一人テレビに熱中している征十郎の傍ら、私もその隙を利用して少しだけ考えに沈むことにする。
最近は習い事を選別するのが専らの暇潰しだ。
勉学は自分から学べるので、塾の類いは必要ない。護身術程度なら習っておいて損はないが、幼い内から筋肉を付けすぎても後の成長に差し障るので、まだ早いだろう。
(剣道…はまだなぁ…あ、でも殺陣なんか習えたら面白そう…)
音楽、美術といった芸術方面は事足りているし、何より今現在、私の希望する習い事に征十郎を引っ張り回しているのが少し申し訳ない気持ちもあったり。
征十郎が望んだことと言えど、たまにはこの子のやりたいことにも、私だって付き合ってあげたくなるというもので。
歌舞伎や文楽なんかも中々気になるけれど、女人禁制だからな…。
さてどうするか、と頭を悩ませていたところ、エンドロールで流れた画像にぴん、と閃きが過った。
馬なら、いいんじゃない?
(ポニーくらいなら、なんとかなるかも)
体格的にきちんとした馬は無理でも、140センチ程度の高さなら問題はない。比較的賢く温厚な動物ではあるし、征十郎も気に入るのでは。
趣味とするなら、乗馬クラブなんかも探せば見つかるはずだ。
そこは追々考えるとしても、中々悪くない案なのでは…と、私は私に賛美を贈りたくなった。
そうと決まれば、本人の意思を確かめるしかない。
「征ちゃん、らいしゅうまつはどうぶつえんにいかない?」
「? なんだ、きゅうに」
名残惜しげにエンドロールを眺めていた子供は、私の唐突な発言にきょとんとしながら振り返る。
これから持ち出す内容に、どんな顔をするだろうか。なんだか、私の胸まで落ち着かなくなってきた。
「いったことないから、きになって。どうぶつにさわれるところがいいよね」
「…そんなにどうぶつすきだったか?」
「うん、すきだよ」
不思議そうにこちらを見てくる征十郎に、笑顔で頷き返す。
動物が好きなのは嘘ではない。目的は別のところにあったとしても。
両親には面倒をかけてしまうかもしれないが、今回ばかりは甘えさせてもらおう。
自分から興味の幅を広げない征十郎の、一歩踏み出すチャンスかもしれないのだ。
「それに、ポニーにのれるところもあるとおもうし」
「! そ、そうか…」
ぴくっ、と肩を跳ねさせて再び瞳を輝かせ、頬を染める征十郎が可愛くて堪らないのは、もう仕方がないことだと思う。
これは何としても付き合ってあげなければなぁ…なんて。
私まで浮かれた気持ちで、そわそわと嬉しさを隠せずにいる征十郎に相好を崩したのだった。
道のり、開拓
そして案の定、いつもよりも子供っぽさを発揮する征十郎が乗馬の魅力に取り付かれるのは、その次の日曜のことになる。
(っ、なまえ、なまえ…!)
(わぁ…征ちゃんってばいいえがお)
(なまえ、このうま、もってかえれないか?)
(うん、それはさすがにむりかな!)
20130305.
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