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幼くとも、女は女。
美醜にはひどく敏感で、徒党を組みがちな生き物だ。

入学から数日、既に大きなグループの出来上がった女子間に、征十郎という分子を抱えた私が入れるはずもなかった。
元々小学生からは人付き合いが面倒だと思ってしまっていた私は、征十郎を男子と交流させようとはしても、自分もグループに混じろうという気持ちは更々持っていなかった。

誰だって無駄に疲れるのは嫌だ。
精神的に上回り過ぎている私に、平等な立場の友人など出来るわけがないと割り切った結論だ。
征十郎は別にして、軽く面倒は見ても、深く馴れ合うつもりはない。

だからだろう。その態度が生意気に見えたのかもしれないし、子供ながらに見目が麗しく冷静な征十郎が、私にばかり構うのが面白くもなかったのかもしれない。
後者の可能性が高そうだが…とにかく、私は初っぱなから女子からの反感を買ってしまったようだった。



「なまえちゃんって征十郎くんがすきなんでしょ」

「…は?」



がやがやと騒がしい休み時間の教室、一グループの気の強いリーダー格である笑里ちゃんの声が大きく響いた。

それは恐らく、室内の興味を集めようとの試みだったのだろう。
中々悪巧みが上手くなりそうな女子だなぁ、という感想を抱きながら手慰みに読んでいた教科書を閉じて首を傾げれば、繕い方も知らない拙い表情が私に向けられていた。

因みに、征十郎は席を外してその場にはいなかった。



(モテモテだなぁ…)



今からこの調子じゃ、成長するにつれてどんどん面倒なことになりそうだ。

私を睨んでくる笑里ちゃんやその他女子、それから興味津々といった様子で遠巻きに見てくる男子達に内心溜息を吐く。
子供のやることとはいえ、正直こういうやり取りは面倒臭い。

まぁ、気に入られるよう振る舞わない私も私だけども。



「なんで?」



とりあえず、笑顔でこてん、と首を傾げてみる。

ザ・かわいこぶりっこというやつだ。
しらを切るなんて言葉はこの年頃の子達には解らないだろう。



「だっていっつも征十郎くんにくっついてるじゃん!」

「すきなんでしょ?」

「あ、そうじゃなくて。なんでそんなこときくの? ってこと」



聞いてどうするの?
好きだったら何なの? 駄目なの?

にこにこと笑顔を保ちながらそう切り返せば、経験値が浅いどころかゼロに近い子供は怒りで顔を赤くした。



(わーあ可愛い顔が台無し)



全く、征十郎も罪な男だ。小学生に言うことじゃないけど。



「うーわー! ほんとにすきなんだ!」

「こくはくだ! こくはく!!」



そしてこういう場合に悪乗りするのが男子というものである。

まぁまぁ、元気がよろしいこと。
そんなからかいも恥ずかしくも何ともないから、別にいいんだけどね。

同じ幼稚園に通っていた子供がこの場にいたなら、この会話の流れには至らなかっただろう。
一から関係性を明確にするのは、子供相手だと更に骨が折れる。もう好きに言わせてしまおうかと匙を投げそうになった時、凡そ小学一年生とは思えぬ凛とした声がその場に響いた。



「なにをしている」



その声の冷たさに、反射的に肩を震わせた生徒はどれだけいただろう。
教室に入ってすぐに、からかいの標的が私であることを悟ったらしいその子供の目には、一瞬にして危うい光が宿った。

あ、これまずいわ。
流石に、征十郎が暴走したら私が止めるしかない。原因が私であれば、尚更のこと。

しかしなんとか宥めようと私が椅子から立ち上がったところで、空気を読まない一人の男子が小さな爆弾を落としてくれた。



「なまえって征十郎がすきなんだぜー」

「は?」



顰められていた眉が弛んで、きょとんとした顔になった征十郎は純粋に驚いたらしい。
軽く周囲を見回して、先程の私と同じようにこてん、と首を傾げた。



「だからなんだ?」

「へっ?」

「え? 征十郎くん?」

「なまえがオレをすきだから?」



わー、これ多分しらを切るとかそういうアレでもないわー。

固まる子供達を不思議そうに見やる、征十郎の表情は素のままで。
一人頬を引き攣らせる私に向かって、更に面倒な同意を求めてきたのだ。



「なまえがオレをすきなんて、あたりまえだろう?」

「…征ちゃん、それはじいしきかじょーというものだよ」

「かじょうなものか。オレはなまえをすきなんだから、なまえだってオレがすきだろう」



何そのオレルール。

いや、まぁ、可愛い幼馴染みですからね。好きだよそりゃ。
他の子供と比べるまでもなく、大事な存在ですよ。
でも、この場合の好意は種類が違うでしょう…?

からかう言葉もなくして狼狽える男子や、幼い失恋で泣きそうな顔になる女子の面々が可哀想でならない。

何もここまで打撃を与えなくてもいいだろうに。
痛む頭を抱えながら、私は深い溜息を吐き出した。







常識、ズレる




(というか、いずれはよめにくるんだからすきにきまってるだろ)
(だれがよめですか)
(なまえがよめだ)
(…だめだわたしこころおれるな。がんばれふぁいとまけるな…)

20130129. 

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