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生前…という表現は正しくないだろうか。私は前世から幾分意固地なところがあり、やると決めたことは完璧にやり遂げなければ気が済まない性分だった。
それは今にも引き継がれているわけで、たとえ実年齢が一桁の幼稚園生であっても、その部分を譲るつもりはない。

それは、誰に何を言われようとも。



「征ちゃんかわいいっ!」

「……いまからでもこうかんするか、なまえ」

「え、やだよ。きょうはプリンセス征ちゃんをたんのうするってきめてるし」

「きめるな。ていうかたんのうするな」



ふんわりと広がる、レースをふんだんに使った白いドレスを翻して八つ当たりに叩いてこようとする子供に、にっこり笑顔を返しながらその手を避ける。
対して私は軍服に似たデザインにマントの着いた王子ルックで、髪は下の方で一つ括りにしている。

幼稚園のお遊戯会とは思えぬクオリティだけれど、おざなりなものよりはテンションは上がるというもので。
というか、予想以上に可愛らしい征十郎の姿に、高揚が止まらない。

可愛いは正義とはよく言ったものよね…!



「まぁまぁ征ちゃん、きょうかぎりなんだからがまんだよ。よこうれんしゅうでも、さいごまできなかったんだから」

「いっかいきりでじゅうぶんだ…こんなの」



普段は滅多に変わらない顔色を紅潮させて、どこか居た堪れなそうにスカートを握りしめる征十郎は天使だった。
思わず、配役チェンジを思い付いた過去の私を褒めたくなるくらいには。
なんだかこれを期に、妙な道に目覚めてもおかしくないくらいには。

勿論、当初の目的だって忘れてはいないが。



(写真も動画も頼んであるし…そっちは問題ない、と)



征十郎と二人してメインどころを演じることになったと言えば、頼む間もなく私と征十郎の母コンビはカメラから三脚から準備を始め、当日は一番いい席を確保するから!、と輝かんばかりの笑顔で宣ってくれたのだ。
本当に、ある意味心強い母達である。



「やっぱり征ちゃんのかみはしろにはえるね」



ロングだったら丸きり女の子だなぁ、と思いながらよしよし、と不貞腐れる彼の頭を撫でると、恨みがましげに睨んでいた瞳が軽く揺れて足元に落ちる。
たまに見せるこういう子供っぽさが、征十郎の可愛らしいところだ。

嫌がりもしないでされるがままになっている彼を可愛い可愛いと撫で回していれば、他の役柄で着替え終わったらしい女子の声が、背後から聞こえてきた。



「やっぱりへんだよ、おうじさまがおんなのこでおひめさまがおとこのこなんて。せーじゅーろうくんがおうじさまやればよかったのに」

「せいじゅうろうくんのおうじさま、みたかったのに」

「ねー」



ぼそぼそ、なんてものじゃない。聞こえるように嫌味を呟いてくる子供の声に、私は振り向くことなく口角を持ち上げた。
幼児って思ったこと簡単に口に出すから、怖いわよね。

恐らくは、征十郎に気がある子達なのだろう。本音を言わせれば、征十郎が王子ならば自分が姫になりたがるに違いない。
それはそれで、可愛らしい嫉妬心だと笑い飛ばせはするけれど。



「なんだあいつら」

「征ちゃんおこらないの」

「だって、なまえをばかにしてる。ばかはじぶんたちのくせに」

「いまはいわせてあげるんだよ、征ちゃん」

「…なまえ?」



私の為に、苛立ちを露に彼女らを睨んだ征十郎の背中をぽんぽん、と軽く叩いて。
私は恐らく幼児らしくない、不敵な微笑みを浮かべる。

相手は子供。とは言え、私だって彼女らに合わせて幼さの仮面を被るつもりはない。



「みせてあげるから、だいじょうぶ」



そう、魅せてあげる。
前世、必要に応じて身に付けた私の演技力は、伊達ではないのだ。









「たとえ貴方がどれだけの灰を被っていようと、私の瞳は決して貴方を見失ったりはしない」



呆然と静まりかえるその舞台で、私はばさりとマントをはためかせる。
小さな身体を大きく動かし、愛しい愛しい姫の前に跪く。それは台本通りの動きではありながらも、恭しさ、美しさを重視し、表情にも想いの丈を滲ませて。

あまりにも拙い台詞は土壇場で改良して、張る声はできる限りの低音に落とす。
同じ舞台上にいた園児は勿論のこと教師や保護者達の視線まで逃さず集めきった私は、顔を真っ赤にして私を見下ろしてくる姫君へと、愛しさを孕んだ瞳で微笑んだ。



「愛しい姫君、どうかこの手を…私を選んではくれませんか」



片手を胸に、もう片手を差し出しながら紡ぎだした台詞に、どこかで悲鳴が上がるのが聞こえた。

ちなみに、動揺のあまりぷるぷると震えながら私の手を取って頷いた征十郎がそれはもう可愛かったというのは、余談である。







魅了、完了




口より態度で説得するが容易く、味方をつけるにも便利なもので。
大人げなくも実力行使に移った私への反応は、すべてが好意へと塗り替えられたのだった。



(なまえちゃん、かっこいい…!!)
(おとこのこより、かっこいい!!)
(台詞が違っ…ていうか何であんな色気が園児にっ!…っああでも確かに格好よすぎたわなまえちゃん…!!)

(ざっとこんなもんだよ、征ちゃん)
(……げせない)
(ええ? 征ちゃんをドキッとさせられるくらいがんばったじゃない、わたし)
(っ…だから、ぎゃくだろう!)
(でもドキッとしたでしょ?)
(っ……いじ、わるいぞ…)
(征ちゃんはいじっぱりだね)
20121013. 

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