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「何これ…マジやべぇ……」



8×10の銀塩写真を手に、真顔で固まること数秒。
ぽつりと溢されたその一言には感情の全てが篭っていて、思わずにやけてしまうのを止められない。

きちんとした形をもって、漸く彼の魅力を彼自身に伝えることができて、私としては大満足だ。



「うわ、ヤベ、ちょっ…オレ初めて写真見て感動したわ! すっげ…アナログってこんなかっけーもんなのっ!?」

「銀塩にはデジタルには無い魅力がありますから。特にモノクロは…プリントの腕は問われますけど、プロの写真は鳥肌ものですよ!」

「っはー…すげーわ。なんつか、綺麗な写真っつったらカラーのイメージが強かったから超新鮮。時間止まってるって感じがすっげーする…」

「喜んでもらえて何よりです。暗室に4時間こもった甲斐がありました!」

「4時間!?」

「はい!」



どうしても長時間かけてプリントしたい写真があるからと顧問に掛け合い、土曜の午後から暗室を開けてもらった。
何度も試し焼きをしては濃度を見直し、プリントしては薄い部分を覆い焼きし…繰り返しているうちに4時間くらいあっという間に経ってしまう。

もちろんその一枚だけに時間をかけたわけではなく、水洗中に他のプリントしておきたいネガも引き伸ばしたりはしたので、4時間かけて五枚は納得のいく写真が出来上がったのだけれど。



「なんっつか…みょうじちゃんも相当な部活脳だよな」

「高尾くんほどではないですよー」

「いやいや、確かにオレも結構なアレだけどね。でもまぁ‥何かを一生懸命楽しめるってのは、好きだなやっぱ」

「素敵なことですよね!」



バスケに一生懸命な高尾くんは本当に、ずっと追いかけて撮影したくなるくらい魅力的だ。
普段の明るい表情もいいけれど、やっぱりあの真剣な目は胸を突き動かすものがあるというか。

それぞれ一番出来のいい五枚の写真は高尾くんに献上するということで、一応マッティングまで終わらせてある。
それらを差し出してから、さぁ昼食にしようとお弁当を開こうとしたところで、一つ一つ楽しげに写真を見てくれていた彼の目がこちらに向けられた。



「今の、誰のことか解ってないっしょ」

「へ? 今の…」



中庭の、木影に位置するベンチ。
写真を手にしたまま、微かに漏れて落ちてくる木漏れ日に照らされた彼の髪がキラキラと輝いていて、思わずカメラを探そうとしてはっとする。
今日は写真を渡すだけのつもりだったから、カメラがない…!

なんて惜しいことをぉぉぉデジタル一眼くらい持ち歩きなさいっ!!、と自分を罵ってやりたくなりながらも高尾くんの言葉を無視するつもりはなく、とりあえず今の、が何を差すのか考えてみる。



(ええと、さっきまでの会話は…)



確か、部活脳がどうとかいう話だった気がする。



「? 一生懸命な高尾くんが素敵ですというお話?」

「ハイッぶー!」

「えっ!? ち、違う!? まさか! 私が高尾くんの言葉を聞き逃すはずが…!」

「ぶっ‥くく、いや、嬉しいけどオレそんなナルシーじゃねぇし」



どこか悪戯な笑みを浮かべながらヒラヒラと手を振る彼に、なるほど確かに、と頷くと更に吹き出された。
けれど彼の笑い上戸はやっぱりいつものことなので、それよりも何を間違ったのかということの方が気になって仕方がない。

とりあえず笑い止むまでじっと彼を見つめながら待機していると、笑い終わって一つ息を吐き出した高尾くんはそれは柔らかく、私の知らない顔をして笑った。



「さっきのは、一生懸命で素直なみょうじちゃんがいいなって話」



それはとても、優しい表情で。

私は今ほどカメラを手に持っていなかったことを悔やんだことはない…じゃなくて。



「え…?」

「みょうじちゃん、オレと付き合ってくれる気ない?」

「………何処に?」

「ベタだなまた! じゃあまぁ未来にってことで」

「え、は、は……ぇええ!?」



何ですと…!!?

思わずベンチから立ち上がろうとした瞬間に、逃さないとばかりに腕を捕まれて引き戻される。さすが高尾くん素早いです痺れる!
じゃなくて、これは一体何の冗談だろうか。さっきまで優しかった笑顔が急に色っぽく見えてやっぱりカメラが無いことが悔やまれる、なんて考えている場合ではない。

付き合うって、ちょっとそこまでとかじゃないんですか!
お友達から始めましょうの方なんですか…!?



「え、え、私? 高尾くん、え、ちょっ…わた、私が高尾くんと付き合うだなんて烏滸がまし過ぎて、私はどうすれば…!?」



こんな私がこんな素敵な高尾くんに釣り合うわけがない。オフコース!
しかし私ごときが高尾くんからの告白を棒に振れるような立場だろうか。答えはノーだ。

どうしよう八方塞がりです先生…!



「いや、みょうじちゃんちょっと卑屈過ぎだから。オレがいいって言ってんだからいいんだって」

「いや、だって、同じ部員にすらマニア過ぎてキモいと言わせるこの写真馬鹿がそんな…っ高尾くん、私は一体全体どうすれば…っあああ!!」

「オレに聞くのね! つか、いーじゃん好きなことに一生懸命。可愛いと思うぜ?」

「高尾くんこんな時にハイスペックさ出されると私っ…つらいです!!」

「ちなみにオレと付き合えば24時間授業や部活以外でオレ撮り放題」

「末永くよろしくお願いします」

「よっし!」



みょうじなまえ、欲望に忠実に生きることにしました。
だって、おはようからおやすみまで平日も休日も高尾くん撮影オッケーと言われたら、それは食い付かずにいられるわけがないというか。食い付かなきゃ私じゃないというか。

頷いた高尾くんの笑顔が輝いていて、申し訳ない気持ちになりそうな気もしたけれど、やっぱりそれよりも彼の笑顔を網膜に焼き付ける方が先決だった。








その胸現像致します




(でも、あの、私高尾くんの外見ばっかり追いかけてて、それでも大丈夫なんですか…?)
(ん? じゃあみょうじちゃんオレの中身嫌いだったり?)
(そんなわけ! ないです好きです! いつもすっごく素敵だと思っ……あ、れっ?)
(ぶっふ!…もっ、もう無理マジで…っ可愛いわみょうじちゃん…っ)
(…私、高尾くん好きだったみたいです)
(うん、っふ、くくっ…今聞こえたって…っはー…オレもみょうじちゃん好きだよ)
(っ………て、照れる! これは照れますねっ!)
(あ、そこはちゃんと照れんのね)
20120915. 

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