今日も今日とて愛しの彼は見た目麗しく中身可愛らしく、胸に込み上げる気持ちを仕舞っておくことができなくなって口に出せば、害虫を見るような冷ややかな視線をいただいてしまった。



「しかしそんな冷たいところも堪らないんだなこれが!」

「いつも思うけどみょうじちゃん強すぎね?」

「お前ら読書の邪魔なのだよ」



ばんっ、と真ちゃんの机を叩いて身悶える私にかかる言葉に答える余裕がない。
嫌そうな顔をされても構いません。気にしません。だって彼はこれがスタンダードだから…!
寧ろぞんざいに扱われた方が気の置けない仲みたいで嬉しいし。決して私にMっ気があるとかそんなんでは…ない、と思う。多分。

涼しい顔をして文庫本から目を逸らさない彼を至福の気持ちで至近距離から眺めていると、さすがにキモいわ、と隣から声がかかった。
どこぞの高尾の言葉は私にとってそこまで価値はないので華麗にスルーさせていただくが。

彼の机に肘をついてじっと見上げる。
眼鏡のせいで目立たないが、その奥は中々整った美形さんである。



「はぁ…美人……可愛い…睫毛長ぁい……ふふふふふ」

「っ………キモいのだよ!」

「え? だって真ちゃんが天使過ぎるから悪いんじゃない…かぁわいぃー」

「190越えた男捕まえて可愛いとか…マジわかんねーわみょうじ」

「高尾の目は死んでるんだね可哀想に…」

「いやいやこれオレの最大の武器ですからねー」

「だから、読書の邪魔なのだよ!!」

「怒った顔も素敵よダーリン」

「っっっ……もう、いい」



私の構って攻撃に、ついに文庫本は閉じられる。
深い溜息を吐きながら手で顔を覆う彼の仕草…とっても美味しいです。

疲れきった顔をしていても、何だかんだ振り払ったりされたことはない。
にこにこと笑顔が溢れる私を見下ろして、彼はもう一つ溜息を吐いた。



「ぶはっ…つっよ!」



そしてすぐに吹き出した高尾を睨み付けていたけれど、悪い悪い、と手を振った高尾は真ちゃんの視線を軽く避けて私に目を向けた。



「しっかしまー、わかんねーわ。何で真ちゃん? 何に惚れたのよ」

「やだ、惚れただなんて恥ずかしい…キャッ」

「顔を隠すな恥ずかしがるな胡散臭いのだよ!」

「えええ好きなのは本当よ真ちゃん! 偏屈なところもいいし、天邪鬼なところも素敵だし、ツンデレなところなんかすっごく可愛いし!!」

「それ言い方変えてるだけで全部一緒じゃね?」

「あと美人だし!!」

「顔かよ! ぶふっ!…やっべ、マジ笑える……っ」

「不純なのだよ……」



失礼な。

耐えきれないといった様子で椅子にしがみついて笑う高尾と、がっくりと肩を落とす彼を眺めて思う。
まさかそれだけなわけがない。今語ったのは良質な付属品であって本体とは別物だ。

意外と照れ屋な彼を思って冗談めかして伝えたのに、呆れられるのは心外というもの。



「あと、一番好きなのはね」



だから、隠さず口にすることにした。



「自分にも他人にも厳しいところ」



一番好きだよ、と呟いた声に、ピタリとやんだ笑い声。
それから眼鏡の奥で瞠られた瞳に、やんわりと笑いかけた。



「自分の為の厳しさも、誰かの為の厳しさも、普通はそう簡単に発することなんてできないから尊敬してる」



我儘にとられたり取っ付きにくかったり、そういう不器用さは厳しさを貫いているからこそのものだ。
とてもひねくれているけれど、自然体で誰かの為になれる真ちゃんに憧れて、私は恋をしている。



「だから私は真ちゃんが大好きなんむぐっ」



すべて語りきる前に勢いよく口を塞いできた手の先を見て、だらしなく頬が弛むのを感じた。



「あー…一本とられたな真ちゃん」

「…黙れ」



照れて真っ赤になる顔も、もちろん大好きなわけですけどね!







一つ挙げてみましょう




好きな人の好きな部分なんて、いくらでも見つけられるものなのだから。
20120813. 
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