大きく腕を振りかぶって、目標値確定。
「はっぴばーすイェエエエエエイ!!!」
「は!? ちょ、ぎゃああごふっ!!」
今まさに教室内に足を踏み出さんとしていた親しいクラスメイトは、扉の影に隠れてスタンバイしていた私の攻撃をまともに顔面にくらい、廊下に尻餅をついた。
そしてすぐに何がなんだか解らないといった驚愕の表情のまま、こちらを見上げてくる。その顔はがっつり男らしいのに、豆鉄砲をくらった鳩のような顔をされるとどうも可愛らしくて腹立たしい…という個人的な感想はさておき。
「やっ、かがみん! お誕生日おめでとー」
「はぁ!? いや、確かに誕生日だけどよ…朝っぱらから人の顔面に何叩きつけてくれてんのお前!?」
「何って、パイ。朝っぱらから本物だと処理が大変だろうから昨日即席で紙粘土で作ってみたんだよ。中々うまくない?」
「お、おお…確かに本物みてぇだな…ってそうじゃなくて!」
「何よー。かがみんが誕生日って昨日知ったから頑張ってサプライズしてみたのにー」
時間が足りないなりに頑張って考えて、定番に辿り着いたもののさすがに朝から顔面パイは着替えるのも大変だと思ったから、わざわざ紙粘土でパイを作ったのだ。そこに至るまでの思考時間と優しさから来る配慮と労力を感謝してほしい。
クリームまみれの火神の姿というのも中々そそられるものがあったところを、私は彼のために思い止まったのだから。
むう、と頬を膨らませた私に火神は深い溜息を吐くと、漸く立ち上がって埃を払う。
それから軽く唸りながら頭の後ろを掻いて、ぽんぽん、と二度、私の頭に手を置いた。
「まぁ、何だ…Thanks」
「…日本語で」
「っっありがとな! ったく…どんな祝い方だよ」
ぶちぶちと不満を垂れ流しながら席に向かうも、赤くなった耳は隠せていない。ツンデレアピールか。
これだからかがみんは、と両手の平を上に向けて首を横に振ると、何だよその反応!、と怒鳴られた。短気は損気だよかがみん。
「まぁとりあえず、これは私からのプレゼントだよ。ありがたくお使いなさい」
「お? おお…って、タオル…?」
「きっと今日中に必要になると思うからね。余分にあっても困らないでしょ」
「何かよくわかんねーけど…まぁ、ありがとな」
「どういたしましてー」
おそらくあの仲好し部員のことだから、放課後には本物のパイが用意されていることだろう。
ちらりと火神の後ろの席に目をやれば、静かに文庫本を読み耽っていた彼と示し合わせたかのように目が合う。
その口元が微かに弛むのをしっかりと確認した私は、選択したプレゼントの正しさを確信して頷いたのだった。
2012 Happy Birthday! 火神大我そして放課後、こっそりと彼らを覗きに行くことも、私は密かに決心したのだった。
20120803.