「なまえちゃん、どうしたの」
「っ…みんなが、テツくんのこときづかないの…さみしいよっ」
「そんなことないよ…なまえちゃんはきづいてくれるよ」
「でも、なまえだけだもんっ、そんなのさみしいよ…」
「さみしくないよ」
大好きな大切な幼馴染みの男の子は、滅多に変わらない表情を弛ませて幼い私に笑いかけた。
「なまえちゃんがいるから、さみしくないよ」
「なぁああんて頃もあったよねぇっ!」
「煩いですなまえ、読書の邪魔です」
「今更私が騒いだところでテツヤの集中力は途切れないでしょーっ」
天使のようだった幼馴染みはどこへやら。
10年以上も時が流れてしまえば、綺麗な記憶はまるで現在とは結び付かない。
扇風機の前を陣取りながら淡々と本のページを捲り続けるテツヤは私の感傷など気にもかけていない様子だった。
興味ありませんか、そうですか。
くそぅ。結構良質な思い出を引っ張り出してみたというのに…。
「テツヤ可愛くなーい。私の天使をどこにやったのよー」
勝手知ったる彼の部屋でごろりと寝転がってぺしぺしと足を叩いてやると、紙面に落とされていた視線が煩わしそうにこちらに向けられた。
しかしそれくらいで怯むような私じゃないぞ!
負けじと構えオーラを滲ませながら見つめ返せば、深い溜息を吐きながらテツヤはテーブルに本を伏せてくれた。
そんな細やかな取捨選択でも、私の心を満足させるには充分だ。
「なまえこそ、あの天使をどこにやったんですか」
「ここに」
「ボクに見えるのは他人の部屋で我が物顔で寛ぐ残念な幼馴染みの姿ですけど」
そんな可愛くないことを口走りながらも手慰みに私の手を簡単に取ってしまうあたり、相当だと思うのだけれど。
涼しげな顔をしながらも夏の気温には勝てないのか、触れあった部分からじわじわと広がる熱に頬を緩ませた。
「嫌いじゃないくせに」
「嫌いになるわけもありませんから」
「テーツーヤ、ねぇテツヤ」
「何ですか、なまえ」
何をしても嫌われない、何をされても嫌いにならないと解っている距離感は心地がいい。
顔には面倒な色を浮かべてもそんなものはわざとだと解っているから、私は気にせずその手に爪を立てた。
「ずっと一緒にいるのに、一番いい立場は何だと思う?」
小さな頃からお互いばかり握ってきたこの手は、この先も多分他に向けることはできずに終わるのだと思う。
私の問いかけに数秒考えるように視線を宙に向けていたテツヤは、同じように私の手に爪を立てて返した。
「夫婦になればいいんじゃないですか」
段階をぶっ飛ばしたその答えに、私が思わず吹き出してしまうのは一瞬後。
お決まり路線まぁ、そうなる想像はついているのだけれど。
(か、彼女とかじゃ、ないんだ…っ?)
(不確かです。ていうか、何笑ってるんですか)
(いやだって、もう…っテツヤほんと、男前になって……っ)
(…まぁ、今はできて婚約ですね)
(やだ何それロマンチック)
20120717.