不公平だと、思った。
「テツくーん!」
桃色の長い髪を靡かせて、彼に走りよる彼女は女の目から見ても可愛くて。
性格も悪くなくてスタイルもよくて、部の利益を産み出せる彼女に憧れてはいたけれど、それでも憎たらしくて悔しくて悲しかった。
だって勝ち目なんて見つからない。
「ずるい」
ずるいずるいずるい。
私の方がずっと彼を知ってて、見ていて、好きなのに。
たった一瞬で落ちた恋なんかに、踏み潰されてぐちゃぐちゃにされるなんて。
そんなのはあんまりだと、強く奥歯を噛み締めた。
帝光中学のバスケ部に入部し三軍のマネージャーになった私は、努力しても実りきれない人達の姿を誰よりも見てきた。
その中でも人一倍一所懸命に、楽しそうにバスケをしている彼を見つけて、心惹かれた。
優しいところ、紳士的なところ…なのに諦めは悪くて頑固なところ、男の子らしいところ。
たくさん、少しずつ集めて形にした恋心なのに、私がどれだけ努力しても釣り合えないような女の子が、彼に気づいて好きになってしまった。
(私の方が)
私の方が、ずっと長く強く、好きなのに。
悔しい。悲しい。何も言えない。
勝てないと解っているのに、口になんて出せない。
想いは重いから口に出せなくて、積もって溺れて身動きがとれない。
だけど諦めきれるほど簡単じゃなくて、彼は本当に素敵な人だから。
(閉じ込めてしまえたらよかったのに)
私だけしか知らなくてよかった。私だけに見える彼がよかった。
男の子としての彼は、私だけが気づいていればよかったの。
そんな気持ちを抱く自分の歪んだ心にも、くらり、目眩がした。
ああ、こんなにも私は、あなたが好きでおかしくなるのに。
ビターテイストせめてあなたの目が、私を写して留めてくれたら。
20120715.