昼休みの時間帯から曇り始めていた空は予報通りの進行具合。
毎度定番おは朝星占いの順位が最下位付近を彷徨いていた相棒様は部活後の自主練もそこそこに先に家路につき、残されたオレは普段通りに練習をこなした。
曇った空か時間帯の所為か、部活帰りに当然通らなければならない生徒玄関の入り口から見えた外はいつもよりも薄暗く目に写る。
響く音と雪混じりの雨を確認して、これは傘を忘れなくて正解だったとほっと息を吐いた時、視界の中に見慣れた女子の姿が入ってきて一瞬にして意識を持っていかれた。
「なまえちゃん?」
玄関を出てすぐの柱に寄り掛かるようにしてたっていた彼女が、ぱっと振り返る。
見間違えるはずもない、今日も一日当たり前に可愛かったオレの彼女がそこにいた。
「あ…高尾くんだったんだ」
誰か来たなぁとは思ったんだけど、と笑う彼女。そう、オレの彼女、なまえちゃんだ。
どうでもいいがオレのなまえちゃんとはとてもいい響きだと思う。いや、どうでもよくはない。国家機密レベルで重要なことだ。今は関係ないけども、オレには重要なことだ。
それはそうと、こんなところに留まって何をしてるんだろう。彼女が完全下校時刻まで学校に残ることは稀だし、残るにしても玄関で立ち竦みはしないはずだ。
不思議に思いつつ近寄ってみれば、彼女の手には鞄が一つだけぶら下がっていた。
「あれ、傘は?」
立ち姿を確認して、疑問はすぐに口から飛び出した。
「朝から持ってきてたよね?」
元々天気は気にしていたから、自分と彼女の分の雨具は確認済みだ。もし忘れていたのならオレは彼女に譲っていたはずなので間違いない。
首を傾げてみると、若干肩を竦めた彼女は言い辛そうにオレから視線を逸らした。
「…美亜ちゃんが、急ぎの用事があるみたいだったから」
「貸しちゃったんだ」
「貸しちゃいました…」
「で、雨脚が途絶えるのを待ってたけど収まらなかった、と」
「ぐぐ…」
また、この子は。
ぐうの音も出ない様子に、オレまで何も言えなくなる。
お人好しというか、たまに自分を省みないというか。そんなところも可愛いし大好きなところだけど、オレの大事な子なんだからもう少し自分を贔屓してほしい。
なんて、言ってもどうせ無理なんだろうけど。
結局、出てくるのは溜息のような笑み一つきりだ。
「ん、じゃ、帰ろっか」
「え」
「こんな寒い日に濡れるとかナシ! 風邪引いても困るからねー」
雨っていうか、霙だし。
因みに反論は受け付けません!
狼狽えた彼女に向かって言い切って、握った手は外気に触れて冷たかった。
それに対してまた少し困った気持ちになったけれど、まぁそこはオレが暖めればいいことかと、開いた傘の中に引きずり込んだ。
一つ傘で成り立つ世界「高尾くんは!」
「っ何!?」
「もう、このっズル尾め!」
「ほんと何!?」
傘に添えるように重ねた手はそのまま、体当たりを受けて危うく水溜まりを踏みかけた。
何事かと隣に並ぶ顔を覗き込んでみれば、白い頬は微妙に色付いているようで。
「もー…もー……そーゆーのかっこいいしずるいんだよ…」
僅かに頬を膨らませてそんなことを言う、彼女。
とりあえず、今言いたいことがあるとすれば。
「霙が憎い!!」
今すぐ傘を放り出して君を抱き締めたいです…!
*
夢主交換企画『
heroine's trade!』に提出。
色芭さん(独活の大木)の夢主ちゃんを書かせていただきました!……夢主じゃなくて高尾になってしまった…。
20140211.