授業合間の休み時間、ずしりと背中にかかった重さにまたか、と溜息。



「敦くん重い」

「んー、なまえ」



首の両側から落ちてくる長い腕と頭の上に顎を乗せられる感覚は、慣れたと言えば慣れたもの。
お腹でも空いたのかな、と隠し持っていたポッキーを机の中から出せば、ピクリと振動が伝わった。

こういう子供みたいな反応が返ってくるものだから、憎めないんだよねぇ…。



「期間げんてー抹茶味!」

「! なまえさいこー」

「はいはい」



状態を崩す気はないようなのでそのまま一本頭の上に上げれば、かくっ、と大きな振動が首にきた。
せめて食べる時くらいは顎は上げてほしかったけれど、多分言っても無駄なことは解っているので仕方なく許容する。

うまー、と満足げに呟いているので、まぁいいか、と思ってしまう。
我ながら彼にはすこぶる甘い。



「相変わらず仲良いっスねぇ」

「うーん…まぁ、五年付き合えばこれくらいはね」



席は近くないものの、三年では縁あって同じクラスになった黄瀬くんが苦笑気味に話しかけてくる。



「小学生からだっけ?」

「うん、私が敦くんと同じクラスに転校してそこからね」

「なまえー、ポッキー」

「はいはい、どうぞ」

「まるきり餌付けっスね」

「ねー、そういや何で黄瀬ちんいんの?」

「ここオレのクラスでもあるっスからね!?」

「敦くん…さすがに今のはわざとでしょう」

「ばれた。よく分かったねーなまえ」



すごーい、と全然思ってなさそうな声で褒められても苦笑しか出てこない。
どうやら敦くん含むバスケ部レギュラーのメンバーは黄瀬くんに少し当たりが厳しいようだ。

ごめんね、と敦くんの代わりに謝ると、みょうじさんの所為じゃないから、と手を振られる。
モデルをしているという彼も敦くん達と絡んでいる時は年相応の少年だ。



「でも大変っスねー。紫原っち高校ではみょうじさんいないのにどうするんスか?」

「えー? 何でいないの?」

「え?」

「いや、いると思ってたんスか!?」



あんたスポ薦っしょ!?

鋭く突っ込む黄瀬くんの主張は正しい。
正しいのだけれど、私もついうっかり高校でもこんな感じで進むような気でいた。
敦くんに懐かれているのが日常過ぎて、普通に同じ高校にいくものだと思っていたのだ。



(そういえば敦くんはすごい人だったんだった…)



いつも私の前ではゆるゆるふんわりしているから忘れがちだけれど、知る人ぞ知る帝光バスケ部キセキの世代の一人なのだ。
当然、バスケの強豪な高校から推薦が来るわけで。

え、じゃあ敦くんとは中学でさよならなの?
そう思った瞬間にがくりと落ちたテンションに、解ってはいたけれど自分がどれだけ彼に執着しているのか思い知らされた。

この五年、世話を焼き続けた敦くんと離れる。
私のいないところで敦くんはやっていけるのか。いや寧ろ、私が敦くん無しで楽しい日常をおくれるのか。
確実に無理だ。無理がある。

絶対的に無理だと判るくらいには、敦くんの世話を焼いてきた五年間は私にとって大きな楽しみでもあった。
だって敦くん、可愛いから!



「敦くん…どこの高校行くの…?」

「んっとー、確か、ようせん? ってとこ」

「どこ…?」

「あー、確か秋田じゃなかったっスかね…」

「秋田!? どうしよ、遠い‥簡単に会いに行ける距離じゃない…」

「えっ? みょうじさんがダメージ受けるんスか?」



どうしよう、完璧に会えなくなる。

本気で落ち込み始める私に、黄瀬くんの驚いたような目が向けられた。
どうしてダメージを受けないと思うんだろう。誰だって馴染みのものと離れるのは辛いに決まっているはずなのに。



「ねー何で遠いの?」

「敦くん…考えて。秋田と東京の地図上の位置を」

「だからー、なまえもオレと来るでしょ?」

「高校から一人暮らしなんて親に許してもらえないよ…」

「寮あったはずだよー。じゃなきゃオレも無理だしー」

「え、そうなの? じゃあようせんだっけ、受けてみようかな…」

「えっ!? それでいいんスか!? 大事な進路なんじゃ‥」

「? 何か駄目なことあるっけー?」

「寮があるならそこそこ特性のある学校なんだろうし…勉強なら多分、いける。うん、一緒に行けるよ敦くん!」

「わーやったねーなまえー」

「もう…色々脱帽っスわ……」






一種の共依存症



未だ恋には成らず。
20120715. 
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