冷静に、状況を整理しながら私が一番強く思ったこと。

人類文明の進化パネェ。



(ネットがあって本当によかった…!)



例え弾き出された答えに望むものが出てこなかったとしても、今やネット環境の整ったパソコンさえあれば大概の疑問は解消できる。
つまり、おおよその状況把握には至れる。

久々に用意された朝食にパクつきながらキーボードやマウスを操作し、液晶に並ぶ文字を超特急で追い掛けながら、分かったことを手帳のメモにがりがりと書き込んでいく。
行儀が悪いと母から怒りの鉄槌が下りても、こればっかりはやらないわけにはいかなかった。

だって、謂わば今の私は記憶喪失にも近い状態。
よく知りもしない世界で普通に振る舞うには、とにかく情報収集が最優先事項だと思う。

とりあえず家族構成は変わっておらず、退行しているだけのようだからいいとしても、今まで関わってきた知り合い、友人の類いが存在するのか。それが一番気になっていることだった。



(…中学は…ない)



私が本来転校したはずの中学は、存在しない。
軽く痛む頭を押さえながらも、咀嚼し続けていたご飯を飲み込む。
中学二年生で転校経験というところには変化はないようだけれど、これは大幅に関わる人間が変化するのでは。

小学校までの付き合いに特に親しい友人のいなかった私は、中学から大学までで気の置けない友人を何人も得てきた。
それがもしかしたら、これから出逢えないかもしれないのだ。こんなに絶望感に襲われることもそうそうない。

転校前の学校は私がいた学校と同じ名前であるからして、そこに友人はいるかもしれない。というか、いる。真新しい携帯の電話帳に今でも一番親しいと思っている親友の名前は登録されていたから、そこは安心していいだろう。
しかし。しかしだ。

今の今まで積んできた時間や信頼関係が、大幅にマイナス、悪ければゼロになってしまったなんて…。



「もう駄目だ…」



泣きたい。すごく、泣きたい。
布団を被って蓑虫状態で寝込みたい。



「何言ってんの初日に…ほら、今日は職員室にも行くんだから早めに出る!」

「…うーい」



最後に緑茶を流し込み、母の声を背中にふらふらと洗面台に向かう。
歯ブラシを準備する傍ら、つい癖で正面に位置する鏡を覗けば、朝から疲れきった表情の女子中学生が立っていた。

まぁ、あれだ。
精神的には辛いものはあるけれど、とりあえず制服に違和感はないんじゃない?

そんな励ましを自分に囁きながら、スカートの丈を整えて。
落ち込んでも仕方ない。なんとか気持ちを切り換えようと、深呼吸をして顔を上げた。






 *




そしてやはり、文明の利器に感謝する私。

帝光中学校なんて耳にしたこともない、学校見学に行ったこともあったらしいが覚えているはずもない私に、通学路なんてものが分かるはずがなく。
行ってきます、と家を出て、空かさず右手に携帯を構えたのは言うまでもない。

本当にインターネット回線を作った人間は大物だと思います。

とりあえずは家から最寄り駅までの地図、そこから学校の最寄り駅を調べておけばなんとかなるだろう。
駅まで行けば同じ制服を着た人間に付かず離れず着いていけば、第一関門はクリアだ。



「…って二駅っ? うわ、近…」



ディスプレイに表示された結果に驚きつつも、そういえば昔転校した時も学校から二駅の距離に引っ越したんだったなぁ、と思い出す。
街並みはさすがに見覚えがないけれど、家の外観は私がよく知る実家と全く同じものだ。

微妙に重なる部分が残っているから、混同しそうになって神経を使うけれど。



(とりあえず二駅なら余裕で歩ける距離だな…)



昔も、そうしていたし。

さすがに今日は無理でも、慣れたら歩いて通ってみようか。

そんなことを考えられる程度には余裕が出てきたのかとも思ったが、多分ただの現実逃避だということは自分でもよく解っていた。







不可解シンクロニシティ




言いたいことがあるとすれば、成人もとっくに迎えた女が若返っているとはいえ中学生の中に混じるのは、かなり肩身が狭いということだ。

せめて高校生レベルの退行だったならと、リアル中学生のスカート丈の短さを見つめながら疲れきった溜息を落とすのだった。

20130116. 



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