新たな試練の幕開けか。

週末金曜夜八時、ベッドの上に放り投げたままだった携帯のメール着信に従ってみれば、開いた画面に広がる親しげな文面。
この状況に至る前の世界…と言い表していいかは判らないが、そちらでは長い付き合いになる小学生時代からの親友の名前、それから覚えのあるテンションで書かれたメールに目を通した私は、しばしの間天井を見つめた。



(これ、どうしよう)



この状況でなければ二つ返事でオーケーを返せるメールでも、今の私がとる対応として正しいかどうかが判らない。
親しい友人でも、ここまで至った経緯が完全に合致するかどうか。

以前の世界と同じ出会い方をした来栖浅香とはまたわけが違った。
既に出来上がった関係の中では以前の記憶がそのまま適応されるのか。したとしても、つい最近起きたことでさえ今の私には思い出せないだろう。
細部の記憶の抜けた不自然な態度を見せてしまえば、心優しい親友に気を揉ませてしまうだろう。そこからどう状況が転じてしまうかも分からない。
不安を数えればきりがない現状だ。

しかし。それでも、だ。
一度目を逸らしたディスプレイに再び目を落とした私の口から、女を捨てるような唸る声が漏れる。

落ち着いた頃だったら会いたいな、なんて可愛らしいことを言ってくれる親友に、無理だなんて返信できるか。今後まで続く問題になるのに、ふれるか。ふれるわけがない。浅縹奏の愛に賭けて。
可愛い女の子、しかも親友の誘いを簡単に断ってしまえるような私じゃないことなんて、考えるまでもなく自覚済みなわけでありまして。



「……っ…なん、とか…しよう」



だって。だって可愛い親友のお誘いなんだもの…!

どこまで誤魔化しきれるかは判らないが、決意は堅い。この世界でも親交は深めたいし、私の元いた未来に少しでも近付けるためには、避けられない道も多くあるということだ。
よし、と気合いを入れた勢いのまま承諾のメールを打つ、その文面もできる限り記憶を掘り起こして中学生時代に打っていたような若干テンションの高いものに仕上げた。

これで、違和感を感じられないことを祈るしかない。



(けど…まぁ、大丈夫…かな?)



これが浅香のような敏感で手厳しいタイプであればもっと長く悩んだだろう。けれど、幸いこちらの親友はわりと大らかで鈍いタイプだ。そこがチャームポイントなので馬鹿にしているわけでは勿論ない。

思い浮かべたほわっとした癒し系代表な笑顔は、私のいた世界の彼女のもの。
一緒に年を重ねながら付き合ってきた親友の幼い姿を改めて見るというのは、父や母といった家族や浅香の時にも感じたことではあるけれど…やっぱり少なからず衝撃を受けることは、覚悟しておくべきだろう。



「えーっと、電車…」



ちょうど休日で、転校したばかりの私は勿論彼女の方も部活には入っていないので会うのは明日明後日辺りになるような気がする。
返信も待たずにそんなことを考えて出発時刻を調べられるくらいには、もう一人の親友との付き合いも既に深めている自信はあった。






斯くして未来は構築される



(お母さーん、私明日ちょっと出かけてくるね)
(あら、デート?)
(男!? 男なのか名前!? お父さんは許しませんよ!!)
(あーうん、睦実さんとデートしてくる)
(むつっ…ああ、何だあっちの友達か…びっくりした…)
(お父さんの過保護はともかく…あんたもうちょっと男っ気あった方がいいんじゃないの? お母さん心配だわ…)
(お母さんはもっと方向性を変えた心配をするべきだと思うな…!)
(…二人ともホント元気だねー)

20131021. 



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