今日一番運勢がいいのは…牡牛座のあなた! ラッキーアイテムは鉄板、ラッキーカラーは緑、ラッキーナンバーは27! ラッキーパーソンは蟹座! 全て揃えば運命の人に出逢えるでしょーう!



「一番だって。よかったね奏」

「色々とつっこみどころはあるんだけど…くどくない?」



朝食もとり終えしゃこしゃこと歯ブラシを動かしている最中、軽やかなバックミュージックに乗せて放たれた星占いの結果に眉を寄せる。
まず、ラッキーアイテムが鉄板って何って話だが。



(本当妙なとこにつっこみどころが多いなぁ…)



運勢一位というところだけはまぁ悪くはないけれど、それも気分の問題だ。
そんなことを思いながら洗面所で口をすすいでリビングに帰ってくれば、私の通学鞄に程好いサイズの鉄板を仕込んでいる母を見つけた。

あらやだお母様ったら何してらっしゃるの。



「目指せがっつり運命のイケメンゲット」

「わーいとってもいい笑顔ー」



本気で持ってくの? たかがニュースに付属したいかにも適当な占い結果なのに。
なんて、確かめるのも今更だ。親指を立てた母の目は紛れもなくマジだった。

こうなったら下手に逆らうのも時間の無駄ということで、仕方なくずしりと重みの増したバッグを肩に掛ける。
昨日の帰りの教科書類プラス食料品プラス松子の重みに比べれば、まだマシか…。



「じゃあ行ってきまーす」

「いってらっしゃーい」



いい結果を期待するわ、なんて完璧に調子に乗った笑顔で手を振る母の若さにはまだ慣れないけれど、基本の性格は変わらないからまだ救われる。
訪れた二日目にも私が本来の姿や生活に戻れる様子はなく、若干項垂れつつも仕方ないので今日も腹を括って新たな中学生活へと足を踏み出した。

本当、未だに全く意味は解らないのだけれど。



「時間は…あるか。電車と歩き、どっちがいーかなぁ松子ー」



しっかりとバッグから顔を出している例の市松人形の頭を撫でながら、一応は昨日覚えた道を進む。
駅へ向かうか、学校まで歩きで向かってみるか。方向感覚には自信があるし、歩きでも遅刻はしないだろうが。

松子はどっちがいい? んー、歩き? よしよし、松子が言うならそうしようねぇ。
なんて寂しい一人芝居をしながら路線を確かめ、進路は決まった。
長い距離でなければ、朝から通勤通学ラッシュにもみくちゃにされるよりは一人でさっさと歩ける方が気分がいい。



(やっぱ歩きかなー…)



帰りは母からの頼み事、主に買い物を任されるだろうからそうもいかないが。
結局、中学生をやり直したところでその時々の行動の選択はあまり影響されないのかもしれない。私が私であるのだから、当たり前と言えば当たり前のことだけれど。

結局私は中学時代そうだったように、家から学校までは徒歩で通うことになるのだろう。



(だろう、って、自分のことなのになぁ…)



変な感じ、と眉を寄せつつ、これも受け入れないことには前へは進めない。
面倒な感覚を持て余しながら一先ずはてくてくと、学校までの道程を開拓していく。

その最中のことだ。
どれくらいの距離を歩いたのかは判らない。が、少なくとも全体の距離の半分以上は過ぎていたと思う。
道を覚えるために周囲を観察していた私の視界に唐突に、鮮やかな緑色の頭が飛び込んできたのは。

その瞬間、リズムよく動かしていた私の両足は石のように固まった。



「ま……」



真緑…っ!

思わずぽろっと出てきそうになった単語を、寸前でごくりと飲み込んで堪えこむ。

え、ちょ、マジで? これ本気で…?



(緑色の髪…!?)



紫、赤と来たら次は緑だと…。
角を曲がった先、私の数歩前を歩いている恐らくは同じ中学の制服に身を包んだ少年に、頭を殴られたかのような衝撃を受ける。

二度あることは三度ある…ということか。今更だけど、その鮮やかな髪色を持つ人間の体内の色素はどうなっているんだろう。
さっちゃんの場合は美少女の法則で気にせずにいられたけれど、ここまで何人も奇抜な色の頭を目にすると…お姉さんさすがにちょっと目眩がしてきましたよ。



(いや…関わらなきゃ気にしなくていいのよね、関わらなきゃ…)



もしかしたらこの世界でも奇抜な髪色は珍しかったりして、気にしたら負けみたいな暗黙の了解があったりとか…しないだろうか。
もしくは、私の年齢退行に付いたオプションみたいなものだと思えばいいのかもしれない。…何の役にも立たないオプションだけど。



(にしても…妙にそわそわしているような)



髪色にこれ以上突っ込むのは諦めよう。世の中知らない方がいいこともある。
彼の頭から視線を逸らしながらも付かず離れずの距離を保ち、その後ろを追って歩いた。
在校生なら学校まで都合のいいルートを知っているだろうと踏んで、一定の距離を空けてついていっていたのだけれど。どうしても視界に入ってしまう緑色の髪の彼の様子が挙動不審なことには、数分も経てば気付く。

ぎこちないというか、頻りに何かを警戒しているように見えるというか。
辺りを見回す瞬間に見えた横顔は幼いながらも中々整っている。しかしその表情と言えば分かりやすいくらいに硬く。
まるで、どこから化け物が襲ってくるか分からないとでもいうような…。

不思議に思いながら背後を歩く私の耳に、その時小さな悲鳴が届いた気がした。
誘われるように見上げたのは、今正に通り過ぎようとしていたマンションで。



「っは!?」



私の目に映ったのは、勢いよく落下してくる何かだった。
それが陶器の植木鉢だと気付いた時には、その落下点に足を踏み出していた目の前を歩く男子へと反射的に飛び付いていた。



「ごめんっ!!」

「ぐっ!?」



急な衝撃に突き飛ばされた男子は、踏ん張る余裕もなく道に転がる。勢い付き過ぎて私まで若干転んで乗り上げてしまったが、そんなことを気にしている場合ではない。
文句を言おうと振り向いた男子を気にする暇などあるわけもなく、直ぐ様身を起こした私は咄嗟にバッグの持ち手を強く握りしめ、それを力一杯振り回した。

次の瞬間、がしゃん、と陶器の割れて地面に散らばる音が響く。
どうやらタイミングは合ったようだと、安堵の溜息を吐き出した私に突き刺さる視線からは、一瞬見えた剣呑な光は消えていた。



「……っ!?」



振り向こうとした体勢のまま、衝撃に目を見開いて固まっている男子の視線は、完全に地面と激突して破片の散らばった元植木鉢に向けられている。
まぁ、こんな命を脅かすハプニングなんてそうそう起こるわけがないから、気持ちは解るけどね…。



(植木鉢って…)



マンションのベランダからでも落ちたのか。その前に人の声を聞いたから、手を滑らせたのかもしれない。それにしても、危ないなら大声で知らせるくらいはしてほしいが。

どちらにしろ、無事でよかったけども。
男子生徒に乗り上げていた身体を完全に離して立ち上がれば、はっとしたように視線を戻される。まだ動揺か拭えない様子の瞳まで緑色の彼に、私はとりあえずへらりと笑い返すしかなかった。

ついちょっと前まで、関わらなきゃいいと思ってたんだけどなぁ…。
どうやらこの世界は、私の回避したいフラグを立てるのが上手いらしい。






運命の出逢いですか




でも、まさか本当に鉄板が役に立つなんて思ってなかったよ…。

20130526. 



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