起きたら何故か、目の前にゆあちんがいた。
「あ、起きた? おはよう紫原くん」
「………は?」
強い眠気の残る頭でも、状況のおかしさぐらいはなんとなく解る。
何度か瞬きを繰り返して、天井を見上げて、それから自分のベッドに寝ていることを確認して…やっぱり意味は解らなくてもう一度、ベッドの脇に膝をついているその子を見つめ直した。
何で、ゆあちん?
「起きてる?」
ひらひらと目の前で振られた手を試しに掴んでみて、感触を確かめる。
うん、ゆあちんだ。間違いない。けど。
「何でオレの部屋にいんの?」
いつも朝から迎えに来ても、部屋の前とか談話室辺りで待ってるのに。
目を擦りながら身体を起こして時計を見てみれば、いつもオレが起きる時間とそう変わらない針の位置。
素直に疑問を口に出してみれば、勝手に入ってきてごめんね、とゆあちんは苦笑した。
別に、いいんだけど。
寧ろ朝イチでゆあちん見れるとか、すごい嬉しいし寝覚めもめちゃくちゃいいし。
「できれば早く、顔見て言いたかったから…ちょっと早起きしてきたの」
「?」
「お誕生日おめでとう、紫原くん」
言葉と同時に、握っていた手から逆にぎゅっと握り返されて、しかもこの上なく嬉しそうな笑顔を向けられたりして。
一瞬、息が止まった。
それでもって、ぶわりと身体の奥から込み上げる熱に、勝手に腕が動いていて。
だって、そんなサプライズ、聞いてない。
「なにそれゆあちんずるい…!」
「うっ…く、紫原く、体勢つらい…っ」
力一杯抱き締めそうになった寸前でなんとか力だけは抑えたけど、位置が悪かったらしく苦しがるゆあちんの手が背中を叩いてくる。
でも、ちょっと今は抱き締めないでいるのは絶対無理だし…。
仕方ないから一回だけ腕を緩めてその腰を掴んで、床から引き上げることにする。
「っ、ふわっ!」
「こっちなら苦しくないよねー」
「え、ちょっ、む、紫原くんっ…!?」
驚いて声を上げるゆあちんを膝の上に乗せてもう一回抱き締めなおしたら、うん、ちょうどいい具合。
顔を真っ赤にして慌てているのに、絶対に突っ撥ねられはしないことにも、ぎゅう、と胸が締め付けられながら、その柔らかさを堪能する。
少しだけ甘い匂いの香る髪の毛に顔を埋めれば、肺の中までゆあちんでいっぱいになるような感覚がして、頭の真ん中がふわふわしてきた。
あ、これヤバいかも。
「オレ今すごい幸せー」
「っそ…そう…」
「うん。ありがとねーゆあちん。一番に祝ってくれて嬉しい」
大好き、と言う代わりに頭にぐりぐりと擦りついてみたら、腕の中に収まった身体が小刻みに揺れて、小さく笑う声が耳に届いた。
「私も、ありがとう。紫原くん、」
大好き。
耳のすぐ近くで優しすぎる呟きを落とされて、控えめに背中を抱き返される。
ぴったりと寄り添った部分から、制服越しでもゆあちんの温もりが伝わってきて。
ああ、それオレが言いたかったことと同じだ、と思ったら目の奥が熱くなった。
触れ合った部分から心臓の音が聞こえる気がして、とにかくどうしようもなく、好きで好きで堪らないことを思い知らされて。
幸せすぎて、おかしくなりそう。
どれだけ一緒にいても、飽きることなんかなくて。気持ちは嬉しさに揺さぶられてばかりで。
たった一人しかいないそんな子の傍にいられるオレは、多分今の瞬間、世界中で一番幸せだと思った。
そんなこと、とっくに気づいていたことだけど。
Happy birthday!!来年も再来年もその先もずっと、この子を離さないでいようと思った。
それだって、もう既に決めていたことだったけど。
(あと…実は、ボディーガードも兼ねてたり…)
(…?)
(先輩達が嬉々としてパイ投げ準備してるの昨日見ちゃったから……紫原くんは、私が守るよ…!)
(うん?…ゆあちん、パイ投げのパイって美味しい?)
(先輩達が作ってたから味の保証はないと思う…。自分から受けにいかないでね? 予備の制服つい最近クリーニングに出したばっかりだし、汚されたら替えが無いから…)
(んー…なんかそれ、ゆあちんオレの奥さんみたいだね)
(え…っ)
20121009.
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