幼心の成長記 | ナノ




少しだけ、期待していた。
本人から聞いたわけでもないのに、オレ以外からの誘いは断ったと知った時、もしかしたらと思ってしまった。

もしかしたら、オレと同じ進路先を目指してくれるつもりなのかな…なんて。



(そんなうまくいくはずないよねー…)



当たり前だ。冷静になった今はきちんと物事を見ることができる。
ゆあちんは頭の悪い子じゃない。芽生えた小さな可能性に浮かれ上がってしまったけど、よくよく考えなくても分かったことだ。
付き合ってる奴と同じ学校を目指す、とか…オレだって自分のことじゃなければ、浅はかな奴だと馬鹿にするに決まっていた。



(ほんとー馬鹿だし)



決まっていたことに気付かずに、傷付いてるなんておかしな話だ。
ゆあちんは真面目な子だから、自分の進む先は自分で考えて迷わず努力するんだろう。二年以上気にかけて見つめ続けてきたから、その姿は簡単に想像できた。

それなのに、どうしてか。隣に自分が並んでいる光景だけは、どれだけ思い浮かべてみてもしっくりこなくて。
ここで終わりだと、告げられたような気分になって首を絞められたみたいに息苦しくなる。
ざわざわと落ち着かない心を癒してくれるたった一人は、今、オレの傍にはいなかった。






「はぁーあー…」



やっぱり補習、残ればよかったかなー…。

ガラスの向こうでお菓子を掴んで落とすアームを眺めながら、溜息が止まらない。普段は気にならないがちゃがちゃとした音や声に、神経を逆撫でされる。
どうせ、落としたお菓子も大して美味しいとも思えないはずだ。一人でゲーセンなんか寄るくらいなら、喋ったり目を合わせることができなくても、真剣に勉強に打ち込むゆあちんを眺めていた方が絶対によかった。
だけど、先に帰っていいよ、と笑顔を向けられた時、はっきり拒めなかったんだから仕方ない。オレと違う場所を目指して頑張ろうとするゆあちんを素直に応援できそうにないのも本当で、そうなると無理に居残ることもできなかった。

自分でも子供っぽいとは思う。けど、もう半年も一緒にいられないことを思い知ったら、余裕もなくなっていくってもので。
吐き出すのを我慢して溜めることしかできなかった気持ちを、やっと伝えられて、受け取ってもらえて、馴染んできたのに。たった一年も浸らせてくれないなんて、そんなのあんまりだって思ってしまう。



(ゆあちん…)



今頃オレのことなんて頭から放り出して、真剣な顔でペンを走らせてるのかな。

本音を言えば一緒にいたい。できることなら、毎日隣にいてほしい。
今この瞬間だってそうだ。ずっと、飽きずに好きでいるから、考えれば考えるほど息苦しくなって堪らない。
優しくて可愛い、人に好かれやすい子だから、離れたら誰かに奪われそうなのにも不安になる。
遠い高校に進学したりしなければ、少しはこの気持ちもマシになるのかもしれない。そう思ったのに、それは絶対に駄目だと、先に釘を刺されてしまった。

並外れた図体に育ってしまったオレが今できることなんて、どれだけ怠くてもバスケしかない。才能というものは確かにあるんだろうし、活かせる側に進むのが正しい選択だとも解る。
自分のスタイルに合った場所を考えると、一校、突出する高校が存在した。地方からわざわざ勧誘に来た女監督の説明を聞いた感じでも、悪くはないかな…と思ったりもしたけど。

問題は、首都圏からの物理的な距離だった。
実家はともかく、ゆあちんから遠く離れた場所に行く、抵抗は大きい。



(遠距離とか…自然消滅の最大の理由だし)



考えただけで、血の気が引く。目眩までしてくる。
間違ってもオレは心変わりなんてしないし、浮気もないし、離れたって忘れられるわけもないし大好きなままでいられるだろうけど。
相手がどうかまでは、分からない。自信だってない。
オレよりも器用であの子に優しくできる奴はいくらでもいると、よく知ってきた今までが不安を煽ってくるから、頭まで痛くなって。

願ってしまうし、悔やんでしまうのを止められない。
自分の勝手で時間を戻せたら、と。

本当に何で、最初から、あの子が好きだと認めてしまわなかったんだろう。



「……無駄すぎだし」



二年間は短くない。
短くなかったはずの時間を棒に振って、今は手を繋いでキスしたりしても許されるほど近付けたのに、一緒に過ごせる時間は一年にも満たない。
毒を吐いてそれを悔いて転げ回って泣きじゃくって過ごした、それだけの時間も大切にできていたら…もっと素直に、必死になっていれば、結果は違ったかもしれないのに。

肝心な時ばかり世界一の馬鹿に成り下がる、自分に腹が立つ。弱音ばっかり浮かんで、情けない。
そんな感情を抱えるのも、もう何百回目になるかも判らない。覚えていなかった。






まよえる




もっと早く。もっと賢く。
そんな風に願ったところで無駄なことで、この先の歩き方を考える方がよっぽど有益だということくらい、じくじくと痛む胸を抱えながらも解っていた。
知っていたから、やっぱり、お菓子の味も全く美味しく感じられなかった。

20141113. 

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