幼心の成長記 | ナノ




どんなに小さな期待にでも、応えたくなるのが恋心というものなのかもしれない。



紫原くんからデートの約束を取り付けられて、早いことに数日が経過している。
刻一刻と迫る日にちを前に、定番のデートスポットや人気のある場所等自分なりに調べてみてはいるけれど…どうもピンと来るものがなくて、私はひたすら頭を抱え続けていた。

雑誌やネットを参考にはしてみても、相手はあの紫原くんだ。一般的な枠に当てはまる好みをしている気がしない。というのも失礼かもしれないけれど、どうしても定番の場所を楽しむ図が浮かばなかったりして。

彼が興味を示すものといったら、本当に一つだけ。食べ物関連しか思い当たらない。
彼女としてそれもどうなのかとは思う。思うけれど、それ以外に好きなものなんて浮かばないのだからどうしようもない。だからといって以前と同じような場所を選ぶのもつまらないだろうし、その上彼が上げてきた要望というのがまた具体性に欠けるものだから、余計に難しくて。



(邪魔が入らないところ…邪魔…)



二人で過ごしたいと言われたことが、嫌なわけはない。恥ずかしさも感じなくはなかったけれど、嬉しさの方が上回るのは本当のこと。
でも、そもそも彼にとってどういったことが邪魔になるのか…そこをよく把握できていないから、考えれば考えるほど分からなくなってしまって。

あそこまで期待に満ちた反応をされたのだから、妥協はできないし、したくない。私としても、彼が笑って過ごせなくては楽しさが半減する。それは絶対に困る。困る、のに。



「駄目…分からない……」



部活終わりの体力で、予習もしてからの考え事では、どうしても余力が足りない。
いくら悩んだところで行き詰まった思考は切り開けなさそうで、不甲斐なさに泣きそうになりながらクッションに顔を埋めた。



(男女交際…よく分からない…)



デートって何を重視すべきなの…? 付き合うって、結局どういうことなの…?

ぐるぐると回しすぎた頭は熱を上げそうで、これ以上は悩み続けられない。これで彼を喜ばせる案なんて浮かぶわけもない。
深い溜息を吐き出しながらぱったりとベッドに倒れこんだ。避けなかった雑誌が顔に当たったけれど、その冷たさが心地好かった。

正直私にこういうのは、向いてないのかもしれない。と、思う気持ちは誤魔化せない。



「いや…諦めちゃ駄目…何か考えないと…」



頑張れ私、紫原くんに報いる何かを思い付くんだ。

折れかける心を必死に立て直し、クッションに埋めた顔を離す。
本当はどんな場所だって、きっと彼は受け入れてくれるだろうことは知っている。それでもやっぱり、今までとても頑張ってくれた彼には、私だって精一杯の行動で返したいわけで。

言葉だけじゃなく、私の全部で表さないと。
彼がそうしてくれるように。伝えて、満たしてあげたいと思うから。



「うー…んー…」



こればっかりは、他の意見に頼るわけにはいかない。私が考えなくては意味がないのだ。

ああでもないこうでもないと、様々な情報を書き出したメモ帳代わりのノート、それから雑誌、携帯をベッド上に並べ直しながら起き上がり、抱えたクッションに顎を乗せながらまだまだ思考は終わらない。
苦しいけれど、幸せな悩みなのだから、逃げ出すことは絶対にない。



(笑ってほしいのは、私もだもん)



だから、全然頑張れるはず。
幸せそうに笑う顔が見たいから、深呼吸して気持ちを入れ換えながら何度か読んだ雑誌のページを再び捲り始めた。






懊悩する




そうして、一所。あまり重要視せず流し読んでしまっていたページに目が留まる。
手を止めて記事を読みなおしながら、彼の性格、好みそうな状況を思い浮かべてみた。



(これは…)



もしかしたら、これなら楽しめるかもしれない。

初デートの内容としては、少し難易度が高い気がする。
けれど、関心はなくもなさそうな気がするし、少し頑張れば彼の希望も叶えられる可能性がある。



「……うん」



こういうのは、本人に聞くのが一番手っ取り早い。

確認は明日に回すとして、とりあえず一つの有力な案をノートに書き込みながら少しずつ視野を広げていく。
この行為だって彼のためと思えば、楽しいことに成り代わる気がした。

20130712. 

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