幼心の成長記 | ナノ





「…で、今に繋がる感じ?」

「いやいやいや、解んねーよ! オレらはなれ初め聞いたんだけど!?」

「えー、だからなれ初め話したじゃん」

「なれ初めというか…マイナスからゼロへの経歴かな、今のは」



室ちんひどーい、と言いながらいつものようにお菓子を貪る彼に、どうやって声をかけよう。

マネージャーの仕事を終えて部室に来てみれば、レギュラー部員(キャプテン以外)が集まって盛り上がっていた会話内容に、足が地面に縫い付けられたように動かなくなった。

紫原くんは…何を話してるの、一体。



(顔から火が出る…)



不器用にもほどがある過去の話なんて誰がバラしたいと思うんだろう。
紫原くんなんてたくさん泣いていたのに、知られても気にならないんだろうか。…ならないかな、彼のことだし、今がよければそれでいいのかもしれない。

それにしてもどうしよう。部室内に入りにくい。
ここで私が入っていけば確実にまた根掘り葉掘り聞き出されるだろうことは想像がついて、今すぐ回れ右をして立ち去りたくなる。けど、紫原くんを置いて帰るなんてできないし…。



「で、ゆあちんはそこでなにしてんの?」

「!? む、紫原、くん…」



その場で立ち往生していると、空気の読めない彼は当たり前のように私を見つけてしまった。
その瞬間に先輩方からも突き刺さる視線に、うっ、と後退りかける。



「待ってたぜー、マネージャー。かーなり気になってたんだよなぁ、オレら」

「何でこいつと付き合うようになったアルか」

「ぷ、プライバシー…とか…」

「オレも気になるな。何しろさっきの話を聞いてれば、そこまで漕ぎ着けるのは奇跡に感じるし」

「室ちんさっきからわりとひどいよねー。てか、あんまりいじめないでよ。ゆあちん恥ずかしがりやなんだから」



ねー?、と首を傾げながら覗き込んでくる彼に言いたい。
それが解っていて何で私を巻き込むのかな…!?

実際私の顔は多分、トマトのようになっているんじゃないかと思う。顔どころか耳や首まで熱くて、自然と視界が潤んでいく。



「あ、ゆあちん駄目。泣かないで」

「誰の、せいだと…」

「オレじゃないよー。ゆあちんと付き合うことになったきっかけ教えろーってうるさいんだもん」

「も、は‥恥ずかしい…よ…」



よしよし、と言いながら頭を撫でてくる大きな手には、一年使って漸く慣れられた。
ゆったりとした口調にも暖かみを感じられるようになったし、今は高過ぎる背丈に怯えることもない。

そんな成長をひしひしと感じながらも、それでも込み上げる羞恥心は拭いきれず、私は身体の大きな彼が近寄ってきたのをいいことにその影に逃げ込んだ。

紫原くんって利便性、わりとたくさんある気がする。



「あっ、こら! 出てこいマネージャー! もうここまで話せばあとはそんな恥ずかしくねーだろ!?」

「恥ずかしいですよ…!」

「ねぇ花守さん、結局どうしてアツシと付き合うことにしたの? 相当苦手だったんだろう?」

「も、も、黙秘です…っ!」

「じゃあ紫原に聞くアル」

「えー? オレは別に、あとは好きなときに好きって言い続けただけだしー…ゆあちんじゃないと分かんないんじゃない?」

「…なるほど。ほだされたのか」

「ほだされたんだな」

「ほだされたアル」

「断定しないでください…っ!」



あんまりからかうと明日のドリンクの配合変えますよ!

叫んだ瞬間にすっかり黙って何事もなかったかのように帰る準備を始めたレギュラー部員は、本当にくせ者揃いだと思う。

そして私を振り向いてぼんやりと首を傾げる彼は、天然故に一番質が悪かった。



「ほだされたの?」

「うっ……」



紫原くんに他意はない。理由より結果を大事にする人だから、別にどちらでも構わないんだと思う。思うの、だけれど。

まぁ実際、あんなに必死に泣くほど想われて、しかもそれから毎日のように所構わず好き好き言われていたら、邪険に扱えるわけもなく。
彼がそんな風で私も少しずつ近寄る努力を重ねていたから、周囲の方が付き合っているものと勘違いし始めてしまったのもあって、ずるずると引きずられるように付き合っているような関係になってしまっていた…というのが、真相だ。

正直、いつから付き合っているのかも私には把握できていない。それもどうかとは思うのだけれど、実際そうだから仕方がない。

ただ、彼を好きになったのはいつかと言えば、多分おそらく、あの時。
私が受けた痛みを理解して泣いてくれた、あの時だと、思う。



「付き合いはじめたのは確かにちょっと、流されたみたいな感じだったけど…好きになったのは、ちゃんと私の意思だよ」



だから別に、完璧にほだされたっていうわけじゃ…ないと思うのだけれど。

自信があるわけじゃないし恥ずかしいのもあって、彼を真っ直ぐに見上げられない。
けれどちらりと仰ぎ見た先で、少しだけ瞠られた瞳が嬉しそうに弛むのはしっかりと確認することができた。







幼心の後日談



(ゆあちん好きー)
(う、ん…私も、紫原くんが好きだよ)
(のろけは他所でやれよリア充)
(……さっきまでからかってたの先輩のくせに…)
20120807. 

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