50万打フリタイリク続編




切っ掛けが何だったのかは、もう思い出せない。思い出せないくらいにはとてもくだらない、馬鹿馬鹿しい、小さなものだったに違いない。
ただ、どんな小さな原因であってもオレは激昂していて、自分が何を言っているのかも理解しないままにその時、叫んでしまったのだった。



「なまえの相手できるやつなんか、現実にいるわけないじゃん!」



そんな捨て台詞を投げたのは、小学六年の夏休み真っ只中だったと思う。
物心がついた頃からずっと傍にいた女の子、幼馴染みのみょうじなまえとはそこから喧嘩が長引いて、しっかりと顔を合わせることがなくなった。段々と意地が張れなくなりだして、我慢がきかなくなったオレが数ヶ月後に自宅に突撃した時には、もう何もかもが遅過ぎた。

壁に積み立てられた漫画と、ゲームのパッケージの山。ベッドの上で壁に寄りかかり、ヘッドホンを装着して携帯ゲーム機を食い入るように見つめていた幼馴染みは、入口で立ち竦むオレに気付くと何の感慨もなさげに首を傾げた。

あれ、黄瀬だ。と。



「久し振り。何か用?」



涼太くん涼太くん、と可愛い声と笑顔を向けてくれていた幼馴染みの女の子の姿は、既にそこになかった。

重大なミスを犯してしまったと、ぐっさりと貫かれた胸を押さえながら子供心に悔やんだ。
けれど、ショックを受け続けている暇もない。オレと接触を絶った数ヶ月の内にどっぷりと二次元という世界に浸りきっていたらしいなまえは、三次元への興味を完璧になくしてしまっていたのだ。

それまでの彼女を取り戻したかったオレは、鬱陶しがられてもめげずに何度も声を掛けた。外に遊びにも誘った。画面の中のキャラクターにはない、愛情だって示して見せた。
なまえ、構って。なまえ、一緒に遊びに行こう。オレ以上になまえのことが大好きな男なんていないっスよ。だから、いくらでも謝るからあの言葉は撤回させて。昔みたいに涼太くん大好きって言ってよ。ねぇ、なまえ。

親しみを込めて見つめてくれていた目が乾いた視線に変わっても、どんどんぞんざいな扱いをされるようになっても、涙を飲んで耐え続けた。
耐えるしかないくらい、オレはずっとなまえが好きだった。友達としても女の子としても、一番はなまえだったから。

なのに。それなのに、そのなまえはどれだけ言葉や行動を尽くしても、少しもこっちへ意識を向けてくれない。



「私の相手できるやつなんか現実にいないって、あんたが言ったんでしょ」



別に撤回しなくていいよ。お陰で私もハマれるもの見つかって万々歳だし。

そんな非情な台詞を向けられて、悔しさに荒れたことも泣いたことも一度や二度ではない。
だからそれは言葉のあやってやつで、本心じゃなかったんだってば…!
半ば叫ぶようにして訴えてみても、別に今更どっちでもいいし、と躱されてしまう始末。

それだけ言われても諦めきれないのは、意地もあるけど、それだけじゃないのに。
不毛なやり取りを続けて四年目。離れた心の距離は一向に縮まらない。



「はー…壁ドン…これはいい壁ドンだわー。俺様系壁ドンは典型的だけど抜かせないよねぇ」

「オレが同じようにしても、全然反応しなかったくせに…」



頬を赤らめてうっとりと画面を見つめる瞳が、オレに向けばどれだけ嬉しいことか。
なまえから好意に溢れた笑顔を向けられる非現実のイケメンが憎い。

中身なんてない設定だけの存在のくせに…と背中から抱き締める腕の力を強めてぼやくと、後ろ頭に顎に頭突きされた。
痛みに軽く呻けば、呆れ返った声がすぐ前から返ってくる。



「あんたがやっても俺様系への冒涜だし。そもそも二次元じゃないし。ていうか勝手に人に抱き付いたまま悄気るのやめてよ。鬱陶しい」

「ひどい…愛が感じられないっ!」

「ないからね」

「なまえのバカぁぁぁっ! こんなに一途に愛情捧げるイケメンでモデルでスポーツ万能な幼馴染み捕まえておいて、何が不満なんスか!」



自分で言うのも何だけど、こんな優良物件そうそうないんスからね!

痛む顎も忘れてすぐ下にある頭にぐりぐりと擦り寄って不満を訴えてみても、返されるのははぁ、と気のない溜息だった。もう本当、胸が抉られる。



「決めるとこで決めきれない残念さも問題だけど」

「ひどい!」

「一番はやっぱり喋って動くってとこがネックかな」



だから、それ、死ぬしかないじゃん!

ほとほとつれない彼女に泣きたくなりながら、それでもやっぱり構うことを止められないのは、オレがいる時だけ外されるイヤホンの所為だ。
最低限構ってくれるから、完全に諦めて切り捨てられない。部屋にも上げてくれるし、ベッタリくっついてみても怒らない。そんなところが狡すぎる。卑怯ななまえを好きでい続けてしまう。

狡い。けど、好きだ。だから、もっとちゃんとオレを見て構ってほしい。
悔しさに唸りを上げながら服の上から首根に噛み付いてみても、ハイハイと流されて終わるのが悲しかった。







I like you, but you dont notice me.




ここまでしてるんだから、頼むから、少しはオレを意識してください…!



 *

I like you, but you dont notice me.
=貴方のことが好きなのに、貴方は全然気付いてくれない。


20140501. 

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