お互いが趣味に打ち込むタイプだと、休暇中に時間を合わせることが中々に困難なことだったりする。
校内で顔を合わせて一緒に過ごす時間はあっても、デートらしいデートは殆どしたことがない。それで仲違いをしたことがないというのが凄いところだが、だからといって手抜きな付き合いがしたいわけでもないし、自分でも納得してしまえない。

というわけで、来る連休。部活が一日オフの日にでも約束を取り付けられないかと交渉してみたところ、オレの話に周りに花でも咲きそうなくらいに表情を明るくした彼女は、一瞬で何かに気付くようにはっと息を飲んで俯いた。

あれ、タイミング悪かったか…?
著しくはない反応に、軽く頭を掻く。なまえの部活動は基本的に室内作業が多いから、大丈夫かと思ってたんだけど。
そのままの流れで先約でもあるのかと訊ねてみれば、次のテーマ撮影の下準備があるのだと落ち込んだ声が返ってきた。



「撮影前に、ロケ地を確認しようと思ってまして…その日に行くつもりで前後の予定も立てちゃったんです…」

「あー、マジか」

「はい…すみません、せっかくのお休みなのに…」



高尾くんと遊びたいのは山々なんですが…と悄気返った態度でちらちらと視線を向けられて、こっちは落ち込むよりも愛されてんなぁ、と和んでしまう。
本気で残念がっているのは見てとれて、ついその頭に手が伸びた。
てっぺんをぐしゃりと撫でてみても、不満の一つも溢されることはない。何でもかんでも受け入れられてるってのは、優越感に浸れて気持ちいい。



「なぁなまえちゃん、それオレついて行くとまずいやつ?」

「あ、いえ、一人で出掛ける気だったのでそれは大丈夫です。けど…高尾くんが楽しめるか…」

「なーに気にしてんの。なまえといて楽しくない時のがねぇってのに」



そんなこと気にするくらいなら引き摺り回してよ。

いつもみたいに、と笑って言えば、もう一度花を散らしそうな反応で大きく何度も頷かれた。









「おー、初めて来たわこんなトコ」



当日、待ち合わせた最寄り駅から少しばかり歩いて辿り着いた洋館と、その庭に咲き誇る花を前に立ち竦んで呟いた。
歴史や芸術に疎いと、近付かないような建造物は山ほどある。駅周辺に来たことは初めてでもないのに、歩き回れる距離に点々と建てられた洋館や名物のバラ園なんてオレは存在すら知らなかった。

こういう場所を探し求めるのも一種の才能だよなと密かに感心していると、今日も重そうなデジタル一眼を首にかけたなまえはにこにこと笑いながら同意してくる。



「遊んだり、何かを食べたりする場所じゃありませんもんね」

「まぁ確かに。嫌いじゃないけど無縁ってか、オレには似合わないタイプの場所だよなー」



芸術やら何やら、精通してるわけでもないし、進んで自分からやって来るような場所じゃない。
そもそもこういう場所を巡る理由がない。見事だとか綺麗だとか思う気持ちがあっても、そこで留まって生産性には結び付かない。

なまえみたいな活動をしてればそりゃ話は別だよな…なんて考えていたところ、えっ、と近い位置から不思議そうな声が飛んできた。



「そうですか?」



庭の入口から、花壇沿いの道を、そこから仰いだ洋館をと、一つ一つ確認しては絶好の場所を探ってはなまえは数度シャッターを切っていく。
その隣から眺める景色はさすがというか、事前準備とはいえ見栄えがする場所をしっかり捉えていた。

なまえの見ている景色は視野の広さを誇るオレでも一人では見付けられないもので。だから面白いんだけどという軽口に振り向いたなまえは、ぱちぱちと大きな目を瞬かせる。



「高尾くんも似合いますよ?」



きょとんとした顔から放たれた自信に溢れた台詞に、オレはというとそれまで考えていたことも吹っ飛ばして、つい盛大に吹き出してしまった。



「っいや、無理だろ! 明らかにキャラじゃねーし!」

「うえっ!? え、でも、高尾くんなら何でも…」

「いくらなんでも欲目が過ぎるからねなまえちゃん!」



花とか洋館とか、綺麗で淑やかなものなんて、そもそも男に合わせるものでもない。
出入りが自由な完全に開放された洋館から出てきた人間が、急に騒ぎ出したオレ達に振り向くのが視界に入ったけど、気にならないくらいにはおかしかった。
何がって、両手でカメラを握りしめながら必死に食い下がってくるなまえの真面目な表情が。
本来の目的も忘れたみたいにオレだけを見つめてくるのが、おかしくて可愛い。



「そんなことないです! 高尾くんなら何でも似合います…!」

「いやいやさすがに…てかなまえに普通に似合うんじゃね? 花とか可愛いもんはさ」

「た、高尾くんは自分の魅力を理解しきっていないから…! そりゃあ、さすがに今から撮るとかだったら万全じゃないので粗が出ますけどっ!」



可愛いはスルーか。
せっかく言ったのにと思いつつ、と込み上げたものを吹き出しながら口を押さえる。
いつも無邪気で真っ直ぐで、ちょっと天然な彼女の真剣な顔は、かなり気に入っているものの一つだ。
本気のスイッチの入ったなまえは、たまに輝いて見える。勿論いい意味で。

そんなに言うなら万全の準備で高尾くんも撮影しましょう!、と意気込む瞳は興奮でキラキラしていて、笑えるやら可愛いやら。



「どんな状況、場所であれど高尾くんの魅力なら私が一番引き出して残せます! このことだけは自信ありますから!」



ぐっと拳を握って見上げてくるなまえを、多分外じゃなく人目がなければ抱き締めていたはずだ。
普段は遠慮しいなのに、こと写真が関わると同じ場所まで引き摺り出してくれようとするパワーに、胸にくるものがある。

愛しいって、こういう感じになることを言うんだろう。



「ちょっと服装を変えて、いつもとは違うロケとかスタジオ撮影なんかもたまにはいいと思うんです」

「うん」

「ポージングとか拘ったやり方も、いつもの格好よさとかと違って芸術的に、仕上がるし!」

「うん…っ」

「何より撮影中に背景とか細部に気を配れるから、後々修正もいらず無駄なく画になる…完璧な画になる高尾くん…とっても素敵…っ! 」



うっとりと夢見るような顔で宙を見つめるなまえに、何が見えているのかはオレには分からないけど。分からないなりに、楽しそうな彼女を見てるとつられて楽しくなるもので。

腹筋がぷるぷると震えるのが自分で判る。
まともに言葉も返さずにいるオレを不思議に思ったのか、ここでまた振り向いたなまえに疑問符付きで名前を呼ばれて、ぶふっ、と堪えきれない息が漏れた。



「っ…いや、ごめん。マジで…ふっ…ひっ」

「わ、私何か変でした…?」

「いや変ってか…っはー…なまえあんまりオレ好きだから」



解ってたことではあるんだけどな。
でも、実感する程嬉しいもんじゃん、そういう気持ちとか。

乱れた息を整えながら外観は大体撮れたのかと訊けば、目を丸くしたままのなまえは特に否定もせずつっこむことなく、素直に頷いてくれる。
それだけ、この子にとってオレを好きなことなんて当たり前なんだろうなぁと思うと、やっぱりちょっと抱き締めてやりたいような気になるけれど。邪魔したいわけでもないからと、その手を握ることすら我慢するオレは中々に健気だ。

だから、異種返しは言葉だけに留めてやる。
当たり前なのは、オレだって同じだということは。



「なー、なまえちゃん」

「はい?」

「オレも」



洋館の入口へ進みかけていた、なまえの肩に手を伸ばす。
周囲に目を配って、一瞬。半分だけ振り向いた顔、こめかみと目の間に口を付けた。



「オレも、一番なまえに好かれる被写体でい続ける自信ならあるぜ」

「っ! たっ…」



ぶわあ、と、今度は多分興奮じゃないもので目の前にある顔が真っ赤に染まる。
周りなんて気にする余裕もないくらい、たった一つ自分に刺さったまま離れない熱視線は、見上げてくる蕩けそうな瞳はオレのものだった。







I'm madly in love with you.




(た、たっ高尾くん! そういう不意討ちはっ…カメラ構え忘れちゃうからずるいっていつも…!)
(それ見越した仕返しだかんなー)
(仕返し…っ? 私何かしたんですか!?)
(まーね。でも責任とってもらうから問題なし!)
(せ、責任って…何の…?)



 *

I'm madly in love with you.
=あなたにぞっこんです。


20140427. 

|
back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -