50万打フリタイリク続編




恋をした。落ちたと言っても過言ではないような、恋を。

そうなればとるべき行動は一つきり。周囲の恋愛相談にばかり乗ってもいられない。オレだって本気の恋愛中で、他にかまけている余裕はないのだ。
意中の彼女との関係と言えば、今のところは少し話すことの多いクラスメイト、といった程度のもので。このままで終われない終わる気のないオレは、とりあえずは親密度底上げのために、日々培い上げてきたコミュ力を唸らせた。唸らせている。そのはず、なんだけども。


「おはようみょうじちゃん! 今日も天気いいよねー」

「おはよう高尾くん。昼からは雨降るらしいけどね」



撃沈。



「みょうじちゃんってスポーツ興味ない方? 今度土曜にウチで練習試合あるんだけどさ、みょうじちゃんが来てくれたらめちゃくちゃ張り切るんだけどなー、なーんて」

「興味ないわけでもないんだけど…土曜は習い事があるんだよね。せっかく誘ってくれたのにごめんね」

「あー、いや習い事はしゃーないっしょ。気にしないで!」



撃沈。



「みょうじちゃんってさー、男で好きなタイプとかいる?」

「さぁ…それより高尾くんまた笑顔がぎこちないよ?」



撃沈…って、これ、おかしくねぇ?

うまく弾まない会話と進展しない関係に、いい加減頭を抱えたくもなる。
おかしい。どう考えても、苦手な相手とでもここまでうまく喋れないことはない。なのに一番仲良くなりたい存在に対してだけうまくいかないなんて本気で笑えない。寧ろ泣きたい。

みょうじに好意を抱いて一ヶ月、一向に埋まらない距離に若干どころかかなりめげそうだ。どういうことだよこれまで散々活きてきただろ今こそ唸れよオレのコミュ力…!



「逆に意識しすぎなのだよ。大体元からみょうじはそう喋りたがりの人間でもないだろう」

「うおお…真ちゃんに指摘されるとマジへこむ…っ」

「どういう意味なのだよ」



そのままの意味なのだよ…。がくりと机に突っ伏しながら力の入らない声で返す。
オレここまで人付き合いに手応え感じなかったことないよ、と呟けば、背後の席から死ね、と吐き出された。やめて今マジで死にそうな気持ちだから。



「くっそー…せめて仲良く名前呼びラインまでもってきてーのに…」



現実は本当に甘くない。これが他の人間なら一ヶ月もあればもっと進展できる自信がある。
しかし、なまじ自信があるだけ今の状況がつらい。そもそもどうしてここまで空回るかといえば、それは間違いなくオレが柄にもなく緊張している所為もあって。
どうしたら、どういう自分なら好かれるのかなんて考えるから、普段通りの振る舞いができないのだ。情けないことにこれが恋する学生の現状というもので。

なのに、こっちからは滅茶苦茶空回ってるのに、彼女の方からは唐突にぶつかってくるものだからたまったもんじゃない。



「元気ないね高尾くん」

「ぉわっ!?」



放課後、人気のなくなった教室で当番の日誌を書き上げている最中、ひょっこりと視界に入ってきたみょうじに、つい驚く。視野が広いとはいっても日常的に注意深いわけではないし、思いっきり気を抜いていたところに好きな子から話し掛けられて、二重の意味で驚いた。



「え? 何で…みょうじちゃん部活とかなかったよね?」



確か聞いた話によれば、今日は休みだと言っていたような。
本来なら既に帰路についている時間帯のはずだ。近付いてくる彼女に跳ねる鼓動をひた隠しながらへらりと笑いかけると、読めない表情を浮かべたその子はこくんと頷いて返した。

何だろうな。仕草から一々可愛いって…恋か。そうかこれが恋か。知ってたけど。



「忘れ物したから、戻ってきたの」

「へー、何忘れたの?」

「これ」

「ん?」



忘れ物、と言うからには席に戻るのだろうと思っていたのに、オレの目の前まできた彼女の手は自分の鞄に伸びて何かを引きずり出す。
自然な仕草で机の上に置かれたそれは見た目は整ったクッキーで、オレンジの柄の入ったビニールで綺麗にラッピングされていた。

それをしっかりと確認した瞬間、オレの手からペンが滑り落ちる。



(いや、ラッピングとかどうでもいいけど)



え? 何これどういうこと? 忘れ物って言わなかった?

呆然としながら机の前に立つ彼女を見上げれば、やっぱりさっきと変わらずの読めない表情がそこにある。



「試合、誘ってくれたのに行けないからせめて差し入れでもと思って。持ってきたのにタイミングはかってる内に忘れちゃってて…甘いの駄目だったらごめんね」

「えっ? や、ちょ…待って、えっと…これもしかして、手作り?」

「うん。駄目だった?」

「えっいや全然! 全然駄目じゃないしすっげー嬉しいよ!? ていうか、マジ、ちょっとオレヤバい…ごめん」

「うん?」



無邪気に首を傾げるみょうじと、渡された差し入れに馬鹿みたいに心臓が高鳴る。
本当、ついて行けない。何なんだよこの流れ、とつっこみたい気持ちもあるがそれよりも嬉しさが勝って顔が熱い。情けないところなんて見られたくなくて片手で顔を覆うオレに、どうしたの、と掛けられる不思議そうな声も今は鼓動を速まらせる要素しかなかった。

ああ、でもそれはいつもか。うん、いつもだったわ。
でも、だけどさぁ…!



「やっべー…ホント、嬉しいけど、格好つかねぇ…」

「? 高尾くんは格好いいよ?」



ぐさり。突き刺さる言葉はとにかく威力が半端なくて、落ちた頭が机にぶつかって鈍い音を立てた。

だから、そういうのマジで、ズルいって…!!






きみの心に触れさせて




いつか絶対、同じくらい動揺させてやる。
今はちょっと、かなり無理があるけど絶対に。



(あああもうマジ好きだみょうじちゃあああん!!)
(高尾ー真面目にやれー)
(ウィーッス!!!)
(…何あいつきもいんだけど。何であんなテンションたけーの)
(知りません関わりたくありません)
(オイ)

20130701. 

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