「寒いですね」



冷えた指に息を吹きかけている私の行動を見て、隣歩く彼が呟く。
小さな仕草を拾われて、嬉しいような恥ずかしいような。
そうだね、と返す私の顔は、赤くなってはいないだろうか。なっていたとしても、寒さで誤魔化しが効くといいのだけれど。

今のようにたまに帰り道を共にすることが多くなっても、どうしてかこの状況には一向に慣れることができない。
寧ろ回を重ねるごとに気恥ずかしさが増して、私は今日も彼に不審に思われてしまわないかと、速まる心臓を押さえ込んでいる。



(テツヤくんにおかしい子だと思われたら、傷つくよね…)



もちろん、そう簡単に嫌われてしまうようなことはないと、信じてもいるのだけれど。



「なまえさんは気温の変化に弱そうですよね」

「え?…そう?」

「何となくですけど。夏や冬より春や秋の方が似合うというか」



唐突に切り出された会話に、自然と首を傾げる。彼の方だって、いかにも静かな季節の方が似合いそうな気がして。
その考えはともかくとして、せっかく差し出された話題なのだから私の方も流れに乗っておこう。そう思ったのが、間違いだったのかもしれない。



「うーん…過ごしやすい方が確かに好きかもしれないけど…でも、夏は冷たいものが美味しいし、冬もこたつでお鍋とか…」

「……」

「ま、待って違う。笑わないで! 違うよ? 食べ物だけじゃないから!」

「いえ…なまえさんらしくていいと思います」

「顔を逸らしながら言われても…!」



だって今、明らかに一瞬吹き出したよね…!?

勢いよく振り向いた私から、逃げるようにそっぽを向いてしまったテツヤくんに泣きたくなる。
これじゃあ、まるで私が食べ物に卑しい子みたいだ。

恥ずかしさで一気に熱を持つ顔を、覆い隠した掌がじわじわと温まる。でも、こんな熱ならいらなかった…。

そのまま埋まってしまいたいような気分になった私の視界は閉ざされていて、羞恥心でいっぱいの感覚も鈍ってしまう。
そのままうああ、と呻いていると、なんだか冷たいものに顔から手を引き剥がされた。



「なまえさんらしくて、可愛いという意味です」

「え…」

「温もりましたね、指」



反応を返す間もなく、するりと指を絡められた手に驚いて息が止まる。
つられて見上げた彼の表情は柔らかく緩んでいて、大きく跳ねた心臓の音が彼まで聞こえてしまわないか、また私は込み上げる熱に狼狽えながら胸を押さえるのだ。






指だけ、そっと




繋がれて、離せない。


20130115. 

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