搬入作業も終わり、勉強の方の課題も粗方片付けて時間が空いた夏休みの終盤。
そろそろまた描きかけで止まっている自由制作に戻ろうかと、考えたところで画材の減りを思い出した。

何しろ今までで一番巨大なパネルを扱ったものだから、必要になる絵の具の量も半端ではなかったのだ。
今回はデザインということで重ね塗りをすることは殆どなかったが、それでもB1パネルは大きい。
制作に移る前にいくらかは補充をしなければ、途中でなくなってもどかしい思いをする。そんなことは目に見えて理解していたから、思い立ったが吉日、とショルダーバッグに財布を放り込んだ。






「あ」

「おう」



家を出て数十歩歩いたかという時、今正に通り過ぎようとした家の門ががしゃん、と開いた。
唐突に出会したのは幼い頃からよく知る人物で、お互い軽く驚いたものの次の瞬間には普通に会話に移っていた。



「部活休み?」

「まぁな。つっても、その部活で使うバッシュを買いに行くとこだ」

「相変わらず部活脳だね」

「お前は」

「画材買い出し」

「他人のこと言えねぇだろ」



まぁね、と頷きながら、自然と歩き出す幼馴染みの隣に並んで、自然と足並みを揃える。
何の因果か、彼の馴染みのスポーツショップは私のよく行く画材屋と同じ街にあるのだ。どうせ行く先が同じなのに、ここで別れる意味もない。
幼馴染みの方も、恐らくは同じような考えなのだろう。特に気にする様子もなく歩みを進めながら、淡々と会話は続いた。



「あ、そういやインハイお疲れ様」

「あー…まぁ、サンキュ」

「冬も、納得できる試合できるといいね」



私にはよく解らないけど。

正直に溢した台詞に、小さな嘆息と軽い苦笑が返される。
適当だな、という言葉に、適当だよ、と返事をした。



「だって私運動できないし」

「本当、噛み合わねぇな」

「でもこれでも幸男兄のことは応援してるよ」



性別も趣味も全く違う幼馴染みとは、何をするにも一緒というほどは昔から近くなかった。
けれど身近な存在に変わりはないし、ここまで重なる部分がないのに妙なところで性格は近かったりしたから、いつの間にか自ずと独特な立ち位置が出来上がっていた。

全てを理解できるわけではないけれど、切り離すこともしたくない。
私の世界を何とか保つための、大きなギアの一つだった。

と、そんなことを伝えれば、確実にこの幼馴染みは照れて口を利いてくれなくなるので黙っておくが。



「……そうかよ」



今でさえ、逸らされた顔と赤く染まる耳。
面白いな、と思うと同時に安心感のようなものも込み上げる。



「幸男兄は女が苦手じゃなかったらそれなりにモテるのにね」

「うるせぇよ」

「私には普通なんだから、同じようにすればいいのに」

「お前は…違うだろ」



赤くなった顔を隠しながら、呆れ気味に落とされた言葉に小さく笑う。

ああ、その通り。



「違うね」



だから私は、この人の傍になら安心していられるのだ。








不機嫌少女の幼馴染み




近いのに近過ぎない信頼が、居心地がいいと知る十五歳の夏。



(で…なまえ、お前は何買うんだ?)
(絵具と紙パレットと…一人じゃなくなったし、キャンバス追加で)
(…まぁ、いいけどな)
(さすが幸男兄)

20130312. 

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