「子供の夢を見たよ」



いつものように二人、静かとも騒がしいとも言えない程好く投げ合う会話の中で、ふと、それまでの流れを打った切るように呟いた征十郎に、私は瞬きを繰り返した。



「はい?」



目の前の男が突拍子もないことを言い出すのは何も初めてではないが、切り出し方が端的過ぎる上に多くを語らないこともあり、深読みが困難だったりする。

今度は何を言い出すのかとまじまじとその整った顔を眺めれば、夢とやらに思いを馳せているのか征十郎は軽く目蓋を伏せていた。



「そう…僕によく似た子供の夢だ」

「う、ん? 征十郎の子供の頃ってこと?」

「いや、僕自身ではないな。恐らく、息子だ」

「息子…そりゃまた…」



ぶっ飛んだ夢見るなぁ…と思いつつ、突っ込まないでおいた。
私の思考回路なんてこの男には簡単に手に取れると解ってはいても、口に出さなければ繕える。



(しかし、子供の夢か)



一体何をもって息子だと認識したのだろうかと、若干の疑問に襲われる。
子供が夢に出てきてそれが自分と似ているとあれば、私だったら直ぐ様娘だとは納得できない気がする。

そんな疑問は口にしなくても伝わったのだろう。伏せていた目を一度開いて、征十郎はふわりと、私以外の女子が見ていれば卒倒ものの笑みを浮かべながらその答えを口にした。



「出てきたのが子供だけじゃなくてな。流石に自分の外見までは確認できなかったが、ただならない親しさの女も出てきた。だからそういうことだろうと思ったんだ」

「へぇ……なんというか、征十郎が見る夢にしては俗っぽいね」

「なまえは僕を何だと思ってるんだ?」

「だって、言うなれば家族の夢を見たようなもんだし」



普段の赤司征十郎からは考え付かないくらいには、ほのぼのした内容じゃないか。
夢は願望を映す鏡とも聞くし、なんだか意外と可愛いところもあるんじゃないの…なんて。
考えた私が甘かった。間違っていた。

家族か…と、口許に手を持ってきながらふむ、と頷いた征十郎の瞳はやけに真剣で、その時点で妙な予感が背中を這い上がるのを感じた。



「そうだな。予知夢になるよう、今から計画を立てておくのも悪くない」

「う、ん…?」



あ、ヤバい。地雷かも。

ひた、と見据えてくる二色の瞳に、そんな思いが浮かび上がった。



「息子は後継ぎとして確実に必要だが…娘も欲しいと思わないか、なまえ」

「……え、いや、何で私に訊くのかな征十郎さん」



ちょっと意味解んないよ。いや、かなり解んないの語弊だ。

いつもながら逃れようのない目力に圧されて、ひくりと自分の喉が鳴るのが判った。
だって、目の前の男の顔と言ったら、何を言っているんだ?、と言わんばかりの真顔なのだ。
私の方がその気持ちは確実に大きいはずなのに。
何言ってんのこいつ、と思うのに。いや、本人を前にそんなこと口に出せやしないけれど。



「そういえば、夢に出てきた女の方の話はしなかったな」

「いやいいよ訊いてないよ誰も」



そんな、言い忘れていたことを掘り返さなくていい。
私としてはその方がありがたいような予感がするから。

それなのに、私の言葉を綺麗にスルーしてくれた征十郎は何かを反芻するような、柔らかな表情で私を見据えてくる。
その目には一切の迷いもなく、マジだ。
ぞくっ、と走った悪寒に、身震いを隠せなかった。



「今より大人びていたが、面影で判ったよ。あれが僕の妻だ」

「……いやー、ただの夢だし…」

「目標ができたなら、前進するのみだな」



私を通して、何を見ているのだか…。
というか、ただの夢にそこまで思い入れる征十郎なんてらしくないし。

自信に溢れたその笑みになんとも言えない気持ちを抱きながら、思った。
とりあえず私は、人の話を聞いてくれない男の嫁には行きたくないな、と。








夢は願望を映す鏡?




(聞いていなくはないさ。叶える気がないだけで)
(それってあんまり変わらないんだけど)

20130309. 

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