甘いお菓子も悪くないけど、飽きない味はやっぱりスナック菓子。
だけどこの時ばかりは好物でもないイチゴみるくの飴玉を用意する。それが何のためかも知らない幼馴染みは、今日もオレの嘘に気付かずにその眉を吊り上げる。
「あーつーしー! 寝てないで! ほら、次の問題解く!!」
「んー…」
「追試引っ掛かったら赤司くんに怒られるんでしょ!?」
机に投げ出した腕を力一杯揺すられても、体格差があるから何でもない。
試験期間のやり取りはいつもこんなもので、勉強が出来なくてやる気もないオレになまえが発破をかけて必死に教え込む。それが目に見えるポーズ。
もう少しぐずって、もっと引き延ばして。本当になまえが困りきったら、ごめんね、なんて謝りながら甘い甘い飴玉をその口の中に放り込んであげる。
そうしたらなまえは仕方ないなぁ、と笑って、やっぱり優しくなるから。
イチゴみるくは偉大だよねー。
(それだけじゃあないけど)
ころころ、なまえより先に口の中に入れていた甘ったるい飴を転がして、ささくれた心を糖分で覆う。
イチゴみるくの飴玉はたまに食べると美味しいけど、なまえはたまにじゃ足りないってのに。
「敦ったら、起きてよー」
「やーだー」
「この、くっ…動け!」
「あはは、なまえよわーい」
「敦が! でかすぎんの!」
必死にオレを起き上がらせようとする、なまえの行動がおかしい。
そりゃ、動くわけないよ。どんだけ重さに差があると思ってんの。
(かわいーけど、馬鹿だ)
なまえは、馬鹿だ。オレのことを一番知った気でいる、お馬鹿さん。
オレの考えなんて読み取れていないのに、どうしようもないのがオレの方だなんて言うんだから。
「もうっ…私はずっと一緒にいられるわけじゃないんだよ!?」
ほーら、来た。
何も解ってない、お決まりの勘違いだ。
中学に入ってからのなまえは、変にオレと距離を置こうとしている。
周りの女子が煩いのもあるけど、一番の理由が何なのか、オレはちゃんと気付いているのに。
いつか本当に離れる時が、怖いんだ。
苦しむのが嫌な臆病ななまえは、オレを引き剥がして傷付けても、自分の心を守るんだ。
(酷いよねー…)
捨てるって宣言されてるようなもんじゃん。
捨てるも何もない、ただの幼馴染みなんて関係ではあるけど、オレが気付かないなんて思うのも中々酷い。ずっと見てきた幼馴染みの性格ぐらい、オレなら隅々まで分かってるのに。
気付いた時には遅かった。なんて、チープなバッドエンドを押し付けるわけでしょ。冗談じゃねーし。
衝動的に歯を立てた飴が、がりり、と音を立てて砕けた。
その音にも、なまえは気付かない。
「やだやだ。オレずっとなまえといるし」
「ま、またそういう…」
「なまえは嫌なの?」
少しだけ顔を上げて声量を落として問い掛ければ、なまえの喉がぐっ、と詰まる。
その様をしっかり拾いながら、弛みそうになる唇は引き締めた。
まだ、笑うには早い。
「嫌とか、そういう問題じゃなくて…」
困って、困りきって、赤くなるなまえの頬を確かめて、漸くオレは笑顔を許される。
嫌なわけじゃないのなんて当たり前。ちゃんと知ってるし、不安になんか思うこともない。
それなのに、なまえは何回繰り返しても気付かないんだから。
(馬鹿だよねぇ)
そんなとこが、可愛いんだけど。
「じゃあずっと一緒いればいーし。ね?」
「むぐ」
包みから出した飴玉を、よく回る舌に押し付けてにっこり。
柔らかい唇を指先で突きながら甘えれば、柔らかくなったなまえはまた、オレを突き放せない。
イチゴみるくはやっぱり偉大だ。
複雑そうな顔をするなまえの頬も、すぐに弛ませてしまうんだから。
「もう…いいから、ちゃんと勉強する。試験に間に合わないよ?」
「んー…はーい」
「って、また間違えてるし!」
見当外れな解答に慌てるなまえを、オレが観察しているのにも気付かない。
本当、馬鹿ななまえ。
(こんなん、解けないわけないじゃん)
なんて。まだまだ教えてあげないけど。
二つ目の飴玉を口に放り込みながら、もう暫くは困惑する幼馴染みの声に耳を傾けていようと思った。
テストの楽しみ方
どうせ、離れるなんて無理なんだって。
その内自分で気付くでしょ。
20130306.
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