※辛口ハニーフェイスの他視点続編
どうしてこうなった。
頭を抱えたくなる衝動を堪えながら、内心で叫ぶ。
マジで、何でこうなったんだよ、と。
「み、宮地せせせんぱっい!」
「言えてねぇし…サンキュ」
「! はいっ」
ぱたぱたと働き回るオレの幼馴染みは、今日もぎこちないなりに精一杯努力して、マネージャー業をこなしている。
その健気さには相変わらず癒されるし、ずっと見守ってきたオレとしては微笑ましさだって感じるわけだ。
ある一点を、除けば!
「あああまた宮地サンに懐いて…っちょ、宮地サン撫でた!? 今なまえのこと撫でた!? なぁ真ちゃんいま宮地サンがなまえに触っ」
「煩いのだよ」
「ぶふっ!」
顔面に叩きつけられたタオルに一瞬視界を奪われた。しかも地味に痛い。
幼馴染みは先輩に心奪われっぱなしだし、相棒は相変わらずデレの欠片もない。
さすがのオレだって凹むんだからな!、とタオルを投げ返せば難なく受け止められた。ちくしょうめ。
「大体何を騒ぐ理由があるのだよ。みょうじが他の人間と近付けるように、距離を置くと宣言していたのはお前だろう」
「言ったよ! ああ言ったさ! でもそれは女の子の中の話であってね!?」
まさが部活の、一番取っ付きにくい先輩に懐くだなんて、思うわけねぇじゃん…!
白けた目を向けてくる相棒には、この葛藤が解らないらしい。
確かにオレは、大事な幼馴染みの極度の人見知りが治ればいいと願っていたし、そのために距離だって置いた。
近くにいればつい手助けしたくなってしまうし、なまえも無意識にオレを頼りにしてしまう。それが続いていいわけがない。
そう思っての、オレなりに考えての行動だったのに。
オレがちょっと相棒に構っている間に、その幼馴染みは人見知りを克服するどころか、選りにも選って部内で一番厳しい先輩に恋に落ちていた。
オレの、物心ついた頃から大事にしてきた、幼馴染みが。
「何で…何で宮地サンなんだよ……」
体育館の壁に寄り掛かりながら、ずるずるとしゃがみこむ。
そりゃあいつかはなまえにだって好きな奴とか、彼氏とかできるとは思ってた。けど、まさかこんなに早く、こんなに急になまえの世界が変わるなんて、誰が思うのか。
「しかし、問題の人見知りは軽減されているのだよ」
「そこが一番納得いかねぇんだって…!」
今も、ドリンクとタオルを配り終えて宮地サンの近くを彷徨いている幼馴染みに、つい口許が引き攣る。
あのなまえの極度の対人恐怖症が、宮地サンを好きになってからはかなりましになったのだ。
好きな人が厳しめだからなのかなんなのか知らないが、オレ以外とも目を合わせられるようになった。ぎこちなさも上がり症も残ってはいるが、その前から比べると随分と人付き合いも広がっていて。
納得いかねぇ…。
喜ばしいことだとしても、その原因が男となると素直に喜べない。
それがなまえの一方的な想いだったなら、オレもここまで騒がなかったかもしれない。
けれど、どうも様子を見る限り完璧に脈なしとは思えないような行動を宮地サンが取るものだから、余計に頭を抱えたくなるのだ。
だって、あの宮地サンがまんざらでもなさそうなんだぜ?
他の奴には滅多にないような気遣いとかが垣間見えるし、自分からなまえに触ることも多い。
そんな現場を、度々部活中に見せつけられてみろ。オレの広い視界に、入ってきてみろ。
「駄目だ…ショック過ぎる…」
うおおお、と頭を掻きむしるオレの頭上から、呆れたような相棒の溜息が漏れた。
「先に放ったのはお前なのだよ」
自業自得なわけでありまして
だからそんなことは、言われなくても充分解ってんだよ…!
(か、和くん、宮地先輩が試験勉強付き合ってくれるって…!)
(なまえ、考え直そう。宮地サンマジ怖いじゃん? しかもドルオタじゃん? それになまえにはまだそういうのは早いから、なっ!?)
(えっ)
(オイ高尾聞こえてんだよ轢くぞ)
(ほらああ! あんな物騒なこと言う人だぜ!?)
(で、でも宮地先輩優しい…し…)
(駄目だこの子盲目!!)
20130221.
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