※幼心、クラスメイト、蜂蜜Darlingと同じ軸設定で書いているので注意。





我が陽泉高校バスケ部は、そろそろ色んな意味で怪物の巣窟と呼ばれてもおかしくはないんじゃなかろうか。

授業も終わり委員の活動で遅れながらも体育館に向かえば、今日も野太いうぉぉおん、という叫びが入口から外まで響いてきた。
それに溜息を吐きながら部室より先に立ち寄ってやれば、ゴール付近で自主練中だったらしいレギュラーの中で崩れ落ちながら泣き喚くそいつを見つける。

いつ見てもまぁ、大の男が情けない。
顔を引き攣らせる私に気付くのは、何時だって副主将の方だ。



「よぉみょうじ、遅かったな」

「委員の仕事でね…で?」



今日は何。

大体予想は付きながらも、私の登場にも気付かずに世を嘆いているそいつに人差し指を向ければ、慣れたもので福井はあー、と間延びした声を発しながら頷く。



「いつもと同じじゃね?」

「ついさっき氷室が女子に告白されてるとこ見たらしいアル」

「なるほど」



それであの色男が苦笑しながらも慰めようとしているのか。全く逆効果だと思うが。
ついでに一年エースは興味なさげに怠い面倒臭いお腹すいた、などと呟き続けている。見れば見るほどカオスな空間だ。



「暑苦しい…」

「おめーそれ言ったら更に泣くぞ」

「男がメソメソしてんじゃないわよ鬱陶しい」



ちっ、と舌打ちすれば、漸く私の存在に気付いたらしい男の肩がびくりと跳ね上がる。
とんでもない巨体とゴツい顔をしているくせに、動作があざといのは何なのか。軽く殴ってやりたくなる私はおかしくないはずだ。



「っ、みょうじ…お、おったんか…」

「いたわよ。あんた何また後輩に迷惑かけてんの」

「うぐっ…」

「ああ、いや…オレは別に」

「氷室黙っとけ」

「…はい」



びしり、言い放つ私の背後でこわーい、と全く怖がってなさそうな後輩が呟いた。紫原お前の練習、増量で監督に交渉してやろうか。



「毎度毎度何で泣くかなぁ…ええ? 男として歳上としてプライドはないんかお前は!」

「す、すまん…! けどワシだってワシなりに悩みがあるんじゃあ!!」

「洒落臭いわ! モテたいモテたいってなぁ、好きな奴もいないくせに分不相応だと気付けこのモミアゴリラ!!」

「だから何で繋げるの!?」



べそをかく大男の胸ぐらを掴み上げるだけの力は、残念ながら私にはない。
形だけ引き上げながら怒鳴れば、返ってきた泣き声は酷く情けなかった。

そんなんだからからかわれるんだって気付きなさいよ馬鹿。
再び溜息を吐き出し、大体さぁ、と少しだけクールダウンする。



「あの校内一、二位を争う色男である氷室が好きな子に相手にされなくて四苦八苦してるのに、あんたが簡単に彼女なんて作れるわけないでしょう?」

「…あの先輩、引き合いに出して貶してませんか…?」

「純情でスゴク素敵だと思うよ」



まぁわりと面白がってはいるけど。

そこまで口に出す必要はないので黙っておく。
軽く笑顔が崩れた色男も見ないふりで乗り切った。



「じゃあ、何で紫原みたいな奴に彼女がおるんじゃあ…っ」

「盛大に拒否られ、からのアタック頑張ったからでしょ。確かにアレも勿体ないけどね」



わー失礼ー、と呟くのんびりとした声も今は無視だ。
正直彼女は紫原には過ぎた物件だと思うけれど、当の本人が納得しているなら周りが口出すことでもない。



「福井だってちゃっかりクラスメイトといい感じじゃし!」

「あーうん、福井は調子いいし器用だから。仕方ないでしょ」

「つーか何で知ってんだよキメーな」

「あと、劉は女子を口説いても許されとるし!」

「留学生だからね」

「特権アル」



諦めろ。
とりあえず、レギュラー陣には好きな相手以外にモテようとする人間はいない。

そんな意味を込めてぐしゃぐしゃになった顔面にタオルを押し付ければ、呼吸が確保できなかったのか力一杯引き剥がされた。
ぜいぜいと肩で息をするその顔に悲哀の色はもう見当たらない。



「解ったらさっさと練習に戻る! 今大事なことを見失わない!」

「……おう…」



ぐったりと力の抜けた声が返ってきても、数分後にはきちんと練習に加わっているだろう。
立ち上がった背中をばしりと叩いて急かせば、根は素直なその男はちょうど体育館に現れた監督の元へと駆けていった。



「もうお前が彼女やりゃいーんじゃねーの」



音量を落として横から囁かれたそれには、軽い笑いを返しておく。



「誰でもいいような男は嫌よ」



それに、今はまだそんなものは必要ない。

最後になる冬を見据えて、私は一つ息を吐いた。







無垢な君にはビターチョコレートが似合う




弄られながら囲まれるその中を、外から見つめられるこの居場所が私は存外気に入っているのだ。

20130203. 

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