※付き合ってる設定です




朝練を終えて教室に向かい、席に着いて一番に視線を向ける先は、決まっている。
さて今日は何に興味を向けているのだろう、とそちらに向けば、いつもは机に向かって俯いている彼女の姿がなかった。



(珍しいな)



朝から彼女が活動的になることはそうそうない。一体何処へ消えたのだろうと周囲を見回して、一点。窓の外でひょこひょこと上がり下がりする黒い頭を見つけて、自然と唇が弧を描く。



「なまえ、何してるんだ?」



教室から設置されたベランダへ繋がる大窓を開けると、室内よりも冷たい空気が皮膚を刺激する。
外だというのにマフラー一つで動き回っている彼女に声をかければ、長い黒髪がふわりと揺れて振り向いた。



「辰也くん。おはよう」

「おはよう。そんな格好じゃ風邪ひくよ」

「動いてるからあったかいよ」



地上ほどはないが、白く積もった雪を集めながら笑う彼女の頬は赤い。
近付いて触れてみれば、確かに自分の指と同等には体温を持っていた。



「雪遊び?」



座り込んで雪を弄る指の先を覗き込めば、何体かの雪の塊がずらりと列を成している。
遊びと称するには技巧の凝らされたそれらは各々動物をデフォルメしたようなもので、納得いくまで作り終えたのか、上機嫌な彼女はそれらを拾い上げると窓際の縁に順番に並べ始めた。



「中々の出来でしょ? 十二支」

「うん…凄いな」



流石というか、器用だ。オレには到底作れそうもない。

教室から見れば、まるでショーケースを逆にしたような光景だろう。けれど。
満足げに一息吐く彼女の手を取れば、きょとんと丸くなった目に見上げられる。

当然ながら、今まで雪に触れていた手は頬と同じように暖まってはいなかった。



「手袋くらいしないと、凍傷になるよ」

「あー…でも、素手の方が綺麗に作れるから…」

「でもじゃない。オレは小さな傷でもなまえに付くのは嫌だよ」

「…ごめんなさい」



真っ直ぐな視線をこちらからもじい、と見返せば、申し訳なさそうにその肩が下がる。
彼女の素直さや無邪気さは可愛らしいとは思うけれど、危なっかしいのも事実だ。

かといって、過度に責めることも出来やしないが。



「あ、でも、あと一つだけ作りたいの」

「…なまえ」

「ごめんね? あと、辰也くんにも手伝ってほしいな」

「オレに?…そんなに器用なことはできないよ?」

「雪玉一個でいいの」



にっこりと微笑んで引き抜かれた手に再び雪を集めて渡されれば、逆らうことも出来ない。

惚れた弱味は怖いな、と思いつつ言われた通りに両手で雪を丸くしていけば、同じように彼女の手の中でも小さな雪玉が作られていた。



「ここに置いてー」



小さな十二支から少し離れた場所を示されて、出来上がった雪玉を置けば、何時の間にそこまで整えたのか赤い実と細い木の枝で表情を付けられたもう一つが上に乗せられる。

そういえば、日本のスノーマンは二段だったか。
こちらも先の分かれた小さな枝を下の雪玉の左右に刺せば、完成、と彼女は再び笑った。



「雪だるまが作りたかったの?」



掌の大きさが違うから、うまい具合に胴体のバランスのとれた雪だるまだ。
それでも、隣に並ぶ十二支達と比べると遥かに単純な作りではある。

誰にでも作れるようなものを、どうしてわざわざ。
見下ろしながら不思議に思って訊ねれば、隣に来た彼女は笑顔を崩さずに頷いた。



「子供みたいで可愛いと思って」

「……え?」

「辰也くんと私の」



子供みたいでしょ?

その一言で、頭を殴られたような感覚に襲われた。



「こ…子供…?」

「だって二人で作ったし」

「………」



思わず、冷たくなった掌で顔を覆ってしまう。
研ぎ澄まされた聴覚に自分の鼓動が響いて聞こえた。

これだから、オレの恋人は。



「あれ? 嫌だった?」

「いや、嫌じゃない。うん…」



子供。子供か…うん、悪くない。

僅かに熱を持った顔から手をずらして彼女を見下ろせば、不思議そうに丸くなった両目がこちらを見上げて瞬く。
きっと発言に深い意味はないのだろう。

けど、どう受け取るかはオレの勝手でもある。



「可愛いけど、溶けちゃうからね」



近くにある身体を引き寄せて腕の中に囲めば、小さな身体が僅かに強張る。
その反応に目を細めながら、どうせなら、と囁いた。



「なまえとなら、ちゃんとした形で欲しいな」

「ふぉっ…」



びくりと跳ねた彼女の顔は、珍しくじわじわと染まっていく。
反撃は成功したかと思われた時、小さく唸りながら目を逸らした彼女の額が胸にぶつかってきた。



「まぁ…うん。それはいつか、ね」



これだから、オレの恋人は…!

反撃を更に返されて、息が詰まる。
頼むから早鐘を打つ心臓には気付いてくれるなと、再び熱を持つ顔をその黒髪に埋めながら願った。







驚愕の痕と物思い




その後暫くの思考が、そちらに傾き続けたのは言うまでもない。



(ねぇなまえ、何で十二支の横に雪だるま…?)
(あ、それベイビーちゃん)
(は?)
(オレと、なまえの子供だって)
(可愛いでしょー)
(あー…うん、何となく把握したわ。揃って爆発しろお前ら)

20130128. 

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