そういえば、と思い付いたのはほんの気紛れだった。



「征十郎って洛山来る前もキセキの世代とかいうののキャプテンだったんだよね」

「そうだが…何だ突然」



私は高校に入ってなんとなくでマネージャーを始めたので、バスケの元知識は殆ど無いと言っていい。
だから征十郎と知り合うまではその名称を耳にしたこともなく、称される彼らのことも未だによく知らない。

一応、先輩方から見せられた雑誌の特集やらは確認したことはあるけれど、イマイチ興味が湧かなかったので読み流してしまっていたり。
それが何故今頃になって気になったかと言えば、目の前にいらっしゃる校内では唯一の友人が、その代表を務めていたということを思い出したからだ。



「なんというか…どんな感じだったのかなぁと。今更気になりまして」

「全戦全勝が基本の部活だったが」

「あ、そーゆーのじゃなく。仲間内の雰囲気とか、洛山とはどう違ったのかなーって話」



ほら、仲良い人がいたりとかさ、そういうの。

箸を持ったまま人差し指を立てて付け足した私を、珍しく行儀が悪いと叱ることもなく相対するオッドアイが瞠られる。
きょとん、とした顔には邪気の欠片もなく、こういう驚きには素直だよなぁこの人、と口の中に放り込んだウィンナーを咀嚼しながら思った。

いつもそういう態度なら可愛らしいものを。



「仲…か。あまり考えたことはないが…真太郎とはよく将棋を指したな。あとはあまり意味はないが敦とも多く過ごした気がする」

「へぇー…全然誰か判んないわ」

「なまえは本当に、近しいもの以外に無頓着だな」

「いや、今正に興味向けてますけど」

「それも僕繋がりだろう」

「…ソーデスネ」



仕方ないじゃないか。直接会ったこともない人間のことなんかそうそう気になりもしないよ。

でもまぁ冬にも試合で対戦することになるであろう人間なら、知らないよりは知っておいた方がいいのも当然の話で。
ゲームメイクには携わらないとしても、選手の精神的にどんなものなのか、聞いておいて損にはならないはずだ。

単純に、友人の過去のチームメイトが気になるだけかもしれないけれど。



(昔っから征十郎がこうなのか…とか)



気になるじゃないか。

じい、と見つめる私の視線に、軽く宙を眺めていた目がぴたりと重なる。
次には一旦箸を置いて、近くに置いていた鞄から彼が取り出したのは一冊のノートだった。

その唐突な行動に対して首を傾げる私の目の前で、食べ掛けの弁当を放置してぱらぱらとページを捲っていた征十郎は、あるページからべりっ、と何かを引き剥がした。



「眼鏡を掛けている男が真太郎、規格外が敦だ」

「説明めっちゃ雑だね」



ひらりと差し出されたのは、一枚の写真だった。
私も箸を置いて、受け取り見下ろす。眼鏡と言えば、緑色の髪の男子か。なんとも弄られそうな顔をしている。何となくだけど。
それから、規格外とは何だろうかと考える間は必要なかった。当然私より高く平均身長を貫く征十郎の背後、最早同じ男とは思えない大きさの紫色の髪の男子が、やる気なさげにピースしている。



「わー…規格外だわ」

「だろう」

「いや君に言われたくもないとごめん冗談だからおかず取るのやめて」



私の照り焼き風鰤…!

伸びてきた箸から弁当を守りながら叫べば、呆気なく箸は引いていった。
たまにこういうからかいを入れてくるのだけれど、征十郎の場合本気の境目が判らないから油断ならない。

しかしそれにしても、と写真を見直しながら思う。
思っていたより和気藹々としているとか、中学生の身長じゃない奴多すぎだろとか、色々と感じるところはあるのだけれど。



「…大切にしてるんだ」



ぽつり。
口から溢れたのは、やっぱり遠い場所の光景よりも目の前の一人のことで。

たった一枚の写真を、いつでも取り出せる場所に置いている。
その意味を、価値を思って、少しだけ胸が締め付けられた気がした。



「どうだろうな」

「ツンデレか」

「それは真太郎の役目だ」

「マジですか。なんかこの人キャラ濃そう…いや、征十郎も負けてな‥っだからおかず取らないでせーじゅーろっ」

「因みに」

「はいっ?」



涼しい顔をしながらもう一度置かれた箸に眉を顰めながら返事をすれば、空になった右手が取り出したのは、彼愛用の携帯だった。



「この中にはなまえ専用のフォルダがいくつかある」

「………はっ?」



思わず、ぴたりと動きを止めて固まった私に、次に向けられたのは珍しくも整った上機嫌な微笑で。



「なまえの嫉妬とは、いいものを見たな」



何もかも解りきっているといいたげなその顔を、一瞬殴ってやりたくなったのもきっと、バレている。







キセキの奇跡




だって、仕方がないと思う。
友人にだって、独占欲は湧くものだ。



(何か言いたげな顔だな)
(……フォルダって何入ってるんですか征十郎氏)
(色々だ)
(色々って何よ…)
(さて。他に言うことはないのか?)
(……ちょっと、寂しい気がしたけど気のせいでした)
(ツンデレか)
(違うっ)

20130123. 

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