※赤司が若干へたれです
「赤司君って、みょうじさんと付き合ってるんでしたよね」
試験期間の部活休み、偶然図書室で居合わせた部活仲間と軽く話し込んでいた最中、自然な流れと見せかけて唐突に紡がれた疑問に、一瞬思考が固まりかけた。
「そうだが…それがどうかしたか」
何とか平静を保って返した声に、違和感はなかっただろうか。
それは気になるが、それよりももっと気にするべき部分は他にあった。
(何故知っている)
付き合っている人間がいることの前に、彼女の存在を。
明言するが、自分から誰かに話した覚えはない。
部活は勿論のこと、クラスや委員会でも彼女と部員、しかも癖の強いレギュラー陣が関わる可能性は限りなく低かったはずだ。そうなるよう気を付けてもいた。
なのに事も無げにその名前を口から出した黒子を半ば睨むように見やれば、感情の読みにくいポーカーフェイスは何を思ったのか、軽く首を傾げながら頬を掻いた。
「…もしかして赤司君、隠してましたか」
「……何が言いたい」
「いえ、まぁ僕の他に気付いたのは紫原君くらいでしたし、いいんですけど」
赤司君、彼女の傍にいるとき、すごく顔が弛んでるので。
ああ、因みにボクがみょうじさんを知っているのは一年の時のクラスが同じだからです。
冷静すぎる言葉にがつんと、頭を殴られたような気分だった。
彼女の存在を知られていたというのはさることながら、選りにも選って一番見られたくない姿を、部員の前で晒していたとなると。
抱えた頭が痛い。
無言で額に手を当てたオレを何と思ったのか、特に声音を変えることなく黒子は続ける。
「でも、確かにあれは見られたくないかもしれませんね」
「……黒子」
「触れるどころか名前すら呼ぶのを躊躇ったりするなんて…赤司君らしくはないですし」
「…どこから見ていた」
「彼女に気を取られてボクに気付かない赤司君は面白かったです」
「練習量を増やされたいか」
「え、嫌です。だったら皆にも話して聞かせに行きます」
「止めろ」
いっぱいいっぱいな状況なんて見られて楽しいものでもなければ、奴等は確実に面白がってちょっかいをかけに来るだろう。それも、彼女を巻き込んで。
それだけは何としても阻止しなければいけない。奴等から隠し続けながら彼女を手に入れるのに、どれだけ苦労したと思っているんだ。
その事を考えれば、比較的冷静で話の分かる黒子にばれたのはまだマシな方だとも言えた。
「…黒子、頼みがある」
「言いませんよ。解ってます」
練習量増やされたくありませんし。
そう言って息を吐く黒子は、やはり理解力は高いのだ。
安堵に呼吸を深めたオレに、向けられる目に邪な興味は窺えない。
「でも赤司君」
「まだ何かあるのか」
漸く落ち着いてきたというのに、まだこちらを揺さぶる言葉でも吐かれるのだろうか。
紡がれた逆説に眉を寄せて見返せば、その先の表情はほんの少しだけ弛められていた。
「大事にし過ぎて不安にさせるのも、どうかと」
「……」
「みょうじさん、可愛い人ですよね」
付き合っているのに名前を呼んでくれない…なんて、可愛い悩みですよね。
「ボクに相談するほど切羽詰まっているなんて」
らしくもない笑みを浮かべた黒子に、それ以上構っている余裕はなかった。
一瞬で脳内を埋め尽くした彼女と聞かされた事実に、考える間も無くこの足は図書室を飛び出して。
今ならまだ教室に残っているだろうかと、その思いだけが脳を占領した。
「赤司君も、人の子ですよね」
後に残された部員がどんな表情をして何を思ったのかも、知らない。
只今、4時13分
人として、恋人として、一歩だけでも。
踏み出す切っ掛けと捉えても、構わないだろうか。
(なまえ、いるか!)
(はっはい!?…え? 赤司くんっ?)
(すまない。説明する時間が惜しいからそのまま言う)
(え? あ、はい…?)
(不安や不満は直接言ってほしい。他の男に相談するのはやめてくれ)
(! あ…ご、ごめんなさい…)
(謝る必要はないよ。それから…なまえと、呼んでもいいか?)
(! う、うん! 勿論!)
20130118.
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